東鉄神先生は遠藤淑子先生やこうの史代先生と並ぶ天才女性まんが家です(廣瀬周先生は男性です)。つまり世界一のまんが家です。『さよならの居場所』は単行本『Double Birthday』収録です。犬っちが完全解説します。成人向けまんがですが、性器の書き込みはごく薄いのでそのまま載せます。
🐾
1/20ページ
男は主人公の浦沢の隣人です。ヒロインのみなみさんは最後に彼女が浦沢の部屋を出て行くときにもこのリュック姿です。「桜の花が咲く」はみなみさんの初体験の隠喩になっています。浦沢は隣室の男のサトシの彼女に横恋慕するのです。舞台は冬なので、2年弱片思いしてたことになります。
この作品では、「部屋」が重要なモチーフになっていて
こう終わります。ちなみに見かけは立派だが大変な安普請です。
みなみさんは彼氏のサトシの部屋に転がり込んでおり、自宅はないようです。
みなみさんはコンビニな(都合のいい)女だということの隠喩です。サトシがみなみさんの名前を呼んでいます。
浦沢は数か月してはじめてみなみさんの名前を知りました。しかし結局みなみさんにその名前で呼びかけることができませんでした。
2/20ページ
浦沢のアパートは安普請で、片思いの女の子が毎日セックスする声を2年弱も聞かされていました。浦沢の童貞はこじれています。ここ数日はケンカばかりです。
声だけでなく振動までつつ抜けです。
「あんたなんてこっちから別れてやるわよ!!」とあるから、サトシの浮気を疑ってケンカしていたようです。これは重要なことです。
「バンッ」というのはみなみさんがサトシの部屋を出て行くときの音です。
最後に浦沢の部屋を出て行くときもおなじ音をさせます。
みなみさんがサトシの部屋を出て浦沢の部屋に入れてもらおうとしています。インターホンの鳴らし具合から、なにがなんでも入れてもらうつもりだとわかります。サトシにも聞こえていたはずです。
3/20ページ
みなみさんはセックスの最中にケンカを始めました。おそらくサトシが他の女の名前を呼んでしまったのでしょう。音がつつ抜けなのは反対向きでもおなじで、みなみさんは隣の部屋に浦沢がいることを知っていて、強引に入れてもらうつもりで服も着ずに飛び出しました。
冬で超寒いから入れないわけにはいきません。
みなみさんは顔にまで傷があり、サトシが暴力的だとわかります。
部屋に押し入ってくるのはよくレイプの隠喩にされます。ここではみなみさん「が」浦沢「を」レイプしています。みなみさんもサトシとおなじく暴力的だということです。
4/20ページ
浦沢は大学生です。
浦沢には仲のいい友だちがいます。
みなみさんは学校も仕事も行っておらず、友だちもいないようです。
みなみさんの世話を焼く浦沢のイメージを、「母さん」ということばが喚起します。
今回の浦沢はしどろもどろな言い訳をしたが
10日もたてばこうです。
みなみさんが着ているのは浦沢に借りた服です。浦沢はみなみさんのお母さんみたいに世話をしています。
5/20ページ
浦沢にも余裕が出てきました。「そろそろ出て行ってくれませんか?」というのがのちほど効いてきます。
みなみさんには行くところも金もありません。だからここを出て行くとかなり悲惨なことになります。
恐るべき安普請なので、サトシもみなみさんが浦沢の部屋にいることを知っていてもおかしくはありません。典型的なミスリードです。
「サトシが謝ってくるまで」みなみさんが居候しています。この時点では浦沢は本当に迷惑していたのかもしれません。
「実は本当に振られちゃったんじゃないんですか?」と
4コマ目の「そろそろ出て行ってくれませんか?」を合わせて
「本当に 振られちゃったんだ あたし…」「どこ行くの!?」に対応しています。 口に出したことは事実になるという、文芸のお約束です。でもそれだけでは作品にはならないから、みなみさんの心情が主題となります。
みなみさんは「サトシが謝ってくるまで」と言ったのだから、彼が謝らない限りは出て行かなくてもよかったのです。
6/20ページ
浦沢はみなみさんの普段のあつかましさから反撃してくると思っていました。
浦沢とみなみさんは、サトシはみなみさんの行方を知らないから、仲直りするなら携帯に電話をかけてくるはずだと思っています。ホントは声がつつ抜けだからサトシは浦沢の部屋にみなみさんがいることを知っています。
7/20ページ
ふたりは高校生のときにサトシが告白してつきあい始めました。サトシがまだみなみさんにホレているという根拠はただそれだけです。
しかしサトシにとってみなみさんはもうコンビニな女でしかないのです。
みなみさんは浦沢の部屋に一日中いて無職だから、携帯代はサトシが払っていたがもう解約したのかもしれません。 浦沢はふとんの上げ下げまでしているというのに…。
8/20ページ
みなみさんはだまって携帯を見ていて
この時点ではみなみさんはサトシに未練があり、彼の名前を呼びます。
あとでお隣の新しい彼女もサトシの名前を呼びます。
浦沢は泣いているみなみさんに背を向け、だまってパソコンを使っています。彼はみなみさんの世話はするけど手は出さないし慰めもしません。
9/20ページ
トリの声の暗喩で、前ページ3コマ目の「ずっとこのまま君が僕の部屋にいてくれたら--…」が、浦沢がみなみさんを捕まえたトリのように扱っていることだとわかります。
マフラーにも意味があります。
見かけだけは立派なアパートの絵でミスリードしつつ、注意深い読者に向け、実はつつ抜けだと訴えています。ここでもトリの声が入っています。アパートの部屋がトリ小屋というわけです。
友だちにまた冷やかされますが
女と住んでいるのではなく、飛び込んできたトリを飼っているのです。
10/20ページ
夕方のスーパーです。
ここでもトリの話をしています。じゃがいもとシチューにはたぶん意味はありません。みなみさんを元気にする方法が、なぐさめるのではなく「おいしいもの食べて」というのは、いかにもペットのようです。
下を見ていた浦沢が女の子にぶつかりました。サトシの新しい彼女です。
11/20ページ
サトシに「……!」という無言のセリフがあります。彼はすべて知っていたのです。
浦沢も、サトシが浦沢の部屋にみなみさんがいることを知りながら連絡してこなかったことを悟りました。
浦沢が帰宅したのは暗くなってからです。
12/20ページ
「今日は遅かったじゃん」だから、浦沢はスーパーからすぐに帰宅しなかったようです。みなみさんはポテチ食って一日中ゴロゴロしていました。それでも腹が空くのか。家事を手伝う気もゼロ。
「どうしてだまってんの!?」とずいぶん偉そうです。みなみさんにとって浦沢はエサをくれる人です。
みなみさんにやっと手を出した浦沢です。これで二人の関係が崩れました。浦沢のマフラーとみなみさんの腕はどちらもトリの羽根の隠喩で、浦沢が母トリです。
3コマ目の「ギュ…」に対するみなみさんの応えが6コマ目の「ぎゅう…」です。手の形もそうなっています。つまりみなみさんは浦沢に好意を感じて応えたのです。もしみなみさんがあてつけだけでセックスするのなら、演出上6コマ目の「ぎゅう…」はありえません。
13/20ページ
ここから部屋の中は暗くなります。
みなみさんはあそこを触られる前から濡れていました。
みなみさんは積極的です。浦沢の名前を呼んでいます。
14/20ページ
みなみさんから誘います。ヌレヌレです。ただでさえ暗くしたのに、眼鏡を外すとみなみさんの顔が見えづらくなるはずです。正常位かと思いきや
童貞がいきなりバックでした。これではみなみさんの顔が見えません。
15/20ページ
みなみさんが体をひねっても、横顔しか見られません。
みなみさんはとても激しいです。
浦沢は目をつぶっています。みなみさんの名前も口に出さずに思うだけです。これではオナニーとかわりません。
16/20ページ
クッションはたまたま目に入っただけです。あてつけがまったくないとまでは言えなくても、声が大きいのは浦沢とのセックスが気持ちいいからです。ここもひっかけでしょう。
みなみさん大絶頂です。ゴムを買いにスーパーから薬局に寄り道して遅くなったのかもしれません。みなみさんはわりとクズですが、浦沢は毎日これを聞かされてホレました。
17/20ページ
みなみさんが余韻にひたっていますが
ふと気づき
サトシの名前を呼んでいます。怒りが炸裂です。さっきクッションに気づいたので探さず投げられました。
みなみさんはヨリを戻すつもりはもうないが、聞こえているはずなのに反応がないとムカつきます。
18/20ページ
隣室から女の喘ぎ声が聞こえます。
サトシと新しい彼女が正常位でセックスしていました。ギシ音まで聞こえるレオパレス並みの違法建築なのです。彼女はサトシの名前を呼び「一緒にぃ!!」とも言っています。
浦沢ははじめてみなみさんの名前を呼びますが、聞こえていないのでノーカンです。
みなみさんは浮気したサトシを自分がフッたと考えていたが、自分がフラれたことを知りました。
19/20ページ
「ギュッ」という擬音は浦沢がみなみさんを抱いたときと
みなみさんが浦沢の手をつかんだとき
があり、ここも浦沢への愛情です。
みなみさんが浦沢のシャツを握るのは、抱きしめるかわりです。泣いているのはサトシにフラれたからではなく
みなみさんは「サトシが謝ってくるまで」と言って居候しました。
浦沢が口にしたのは「フラれたなら出て行け」でした。
「わかってたの 本当は…」「もう… 終わりだって」みなみさんはサトシとはもう終わりだということは知っていたのです。しかしサトシの浮気が原因だから自分がフッたのだと思っていた(思いたかった)。
「サトシが謝ってくるまで」ならいつまでも居候できたのに、フラれたことが明白になった以上は出て行かなくてはなりません。浦沢に迷惑をかけていたことは自覚していたから
……ごめんね もう 来ないから…
というわけです。
20/20ページ
着の身着のままでホームレスになるのでしょうか。この季節にこの服は寒そうです。
扉と、衣服が散らかっているところはレイプの隠喩になっています。
みなみさんの暴力性の表現です。セックスが終わった直後に他の男の名前を呼ぶのはとても暴力的なことなのです。
涙を流すコマは浦沢と
文芸のお約束として、泣いている二人の心情はおなじです。相思相愛になれたのに、みなみさんは勘違いから出て行きました。
この作品は部屋=居場所の話でした。浦沢とみなみさんはおたがい思いやりや信頼を示すことができませんでした。浦沢にはまだ友だちや居場所がありますが、みなみさんにはそれもありません。『さよならの居場所』という題名は、「浦沢に居場所はそれでもある」「みなみさんに居場所はない」とダブルミーニングになっています。
おわらないのです
四角の吹き出しのモノローグをすべて順に並べ、--の位置で区切ると
彼女の事は名前しか知らず………
それ以上に関わる事なんてないと思,っていたけど……
ある晩それは一変した
--だけど
次の日も
次の日も
そのまた次の日も
彼は…
本当に気付いていないんだろうか?
みなみさんが隣に居ることを--
--こうして
みなみさんは僕の部屋から去っていった…
となります。ストーリーの文脈からは「彼」はサトシのことですが、モノローグだけの文脈からは「彼」は浦沢のことだとも解釈でき、浦沢がみなみさんのことに気づけなかったから彼女を失ったと理解できます。