映画『リズと青い鳥』は数学ダジャレ映画なのです!その1:アバンパート
引用符のついているスクショが時系列に沿っています。
けっこう離れて座ります。
うれしい…
ん?
あっ、みぞれもうれしい?
はっ
わたしもーうれしくってさぁ
この曲、メッチャいいよねー
これが自由曲なの、すっごいうれしい
うん…
ちっともうれしそうではありませんが、みぞれは希美といっしょにいられることがうれしいのです。気持ちというか、ことばが通じなかったので、みぞれはガッカリしています。
これ、図書館で借りてきた
図書委員も「図書館」と言っていますが、そこで借りたのでしょう。
リズっていう、ひとりぼっちの女の子のお話
ひとり…
みぞれが目を丸くしています。絵本は希美の視線の先にあるので、みぞれが見ているのは希美の頭、つまり髪です。
あいかわらず希美を見ています。この時点では
あたし、ずっとリズに自分を重ねようとしてました。
みぞれはリズに自分を重ねているので(正確には、みぞれはここではまだ「リズと青い鳥」のストーリーを知らないので、後述の希美のセリフから)
ひとり…
はみぞれ自身の気持ちを述べたものです。
希美の孤独は構図が暗示します。Aパートではふたりは仲がいいように見えて、ことばが通じていません。これがdisjointです。
ずーっと
ひとりぼっちだったリズのところに
ある日、知らない少女がやってくるの
「ねえ、キミ」
「キミ、名前なんていうの?」
「わたし、傘木希美。いっしょに吹部入らない?」
これはみぞれが中学校のときを回想しています。
このときみぞれはやはり目を丸くしています。
きれい…
リズの反応はこんな感じ。
ふたりはすごく仲良くなって、そのままいっしょに暮らし始めるんだけど
最後、ふたりは別れちゃうんだよね
リズのもとにやってきた少女は、実は、青い鳥でねリズのもとから飛び立って行っちゃうんだ
たしかそんな話
みぞれは自分をリズに重ねているので、青い鳥=希美が自分から飛び立ってしまうことを恐れています。これが
進路調査を白紙で出した理由です。希美の進路を知らずに自分だけが書いて別れが現実になってしまうことを恐れているのです。
なんかちょっとわたしたちみたいだな
どういう…
でも別れるなんて悲しいよねー
物語は、ハッピーエンドがいいよ
希美が「わたしたちみたいだな」と言ったので、みぞれはここで「リズと青い鳥」を意識し、自分をリズに重ねはじめました。希美=青い鳥を手放したくないからです。映像はやや現実に先行しています。
うん
希美の口から「ハッピーエンド」ということばがでたので、すこし安心しました。
ふたりはまがうことなきユリですが、タイミングが悪いのです。
(希美が指を滑らす)
卯田百合子「ユリ、こうだ」「ふれ」「あい」
愛ゆえの決断…
「愛ゆえの決断」は第三楽章のタイトルです。
- 青い鳥はリズにうながされて飛び立った
- それは「愛ゆえの決断」である
したがって
それだけは、きっと本当…
それが、青い鳥の愛のありかた
飛び立つしか、ない…
- したがって、「青い鳥の愛のありかた」とは、うながされて飛び立つことである
と結論しました。みぞれが飛び立った理由はこれ以外にはありません。美少女だから気づきにくいが、どうもなんかズレています。みぞれは自閉症なのです。
時計に針がなく、無時間的でファンタジックな空間を演出しています。
はやく本番で吹きたいなぁ、この曲
たぶんこの二色を混ぜるとタイトルや腕時計の色になると思います。
のぞみは
のぞみは、練習、が、好き…?
ん?好きだよぉメッチャ好き
この曲、も…?
すごい好き…
だって…
本番楽しみだね!
(扉を開ける音)
おはよー
希美は「練習」「この曲」は好きで、音楽もつづけたいのだが、自分には才能もお金もないので無理だろうと思っており、しんどい状況ですが、みぞれといっしょなのでやっています。ただし、希美は表現が下手なので、本心と発言は微妙にズレていることが多いです。
わたし、希美がいなかったら、なんにもなかった
楽器だってやってない
希美が、声かけてくれて、友だちになってくれて、やさしくしてくれて、うれしかった
みぞれは音楽にはさほど興味がなく、希美といっしょだからやっているにすぎません。本番が終わると別れがくると思っており、険しい顔をしています。
女子にモテモテののぞ先輩ですが
真実の姿はこうなのです。
本番なんて一生来なくていい…
本番が終わる=希美との別れが来る、と信じこんでいます。
絵本の舞台は近現代なのです。
家は土足ですが
屋根裏部屋はスリッパなのです。本が積んであります。
二回とも希美がたまたま居合わせていました。希美は読書家なのです。
リズは嵐の夜、動物の無事を徹夜で祈りました。信心深くやさしい子なのです。
リズは靴をはいているようです。
希美が置き忘れて行った絵本を読んでいます。ストーリーの詳細はこのときに知ったはずです。
恋愛成就の「ククルクゥのおまじない」だそうです。
それかわいいよねー
かわいいー
のぞ先輩のクロスもかわいいですね
のぞ先輩って呼ぶのかわいい
かわいー
のぞせんぱーい
きみらそんなにかわいい重要?
重要ですよー
「かわいい重要」と学習しました。
あははっ、息あってるねー
ぱっ
希美はみぞれにも豊かな表情を見せてはいるが、「息あってる」ことはなかったのです。
自分も「かわいい」ことをすると、希美と息があうのではないか?と考えたのです。みぞれは「大好きのハグ」はおそらく苦手で、中学のときはしませんでした。
先輩?
こんど、ファゴットの子たちと、ダブルリードの会するんですけど
や、まあ言っても帰りにお茶?するだけなんですけど
鎧塚先輩もごいっしょにどうですか?
せっかく四人しかいないダブルリードですし…
わたしは、いい…
そう、ですか…
みぞれは「かわいい」後輩を見て、自分にはあんなふうには振舞えないと思って辞退したのです。
希美
あ、みぞれ、お疲れ
今日はパートの子らとファミレス寄って帰るんだー
…そうなの…
うん!
見た目でだまされてしまうが、みぞれは自分は「かわいくない」と思っていて、希美が「かわいくない」自分より「かわいい」後輩を選んだと考えました。「うん!」と明るく言われたのでけっこう傷ついてます。もちろん誤解ですが、この映画は重なる「誤解」が物語を動かします。
あっ…
うん…
じゃあ
うん、またあしたね
またあした
希美とみぞれは未来に関して対照的な態度でいます。
はやく本番で吹きたいなぁ、この曲
希美は未来が楽しみですが
本番なんて一生来なくていい…
みぞれは「あした」は来ないかもしれないと思いながら生きています。
これ、朝の…
だねー、ごめんごめん、ありがと
希美、その話、好き?
好きだよ?最後はちょっと悲しいけどね
のぞせんぱーい
あ、いま行くー!
みぞれとしては会話の途中だったのですが、希美はそんなつもりはまったくなく、後輩に取られてしまいました。
みぞれに残されたのは希美がくれた羽根だけです。手をかぶせるのは「大切に思っている」、口元に持っていくのはチューです。みぞれが考えているのは渾身のダジャレのことです。
さしずめダブル・ルー・リードだよー
渾身のダジャレは断じてダブル・ルー・リードではないのです。ヒントはreed=簧/millなのです。
ああ、神様
どうしてわたしに
絵面はそっくりですが、これはチューではなく祈りです。リズは信心深いがみぞれはそうではありません。
せんぱぁい、つれないですぅ…
健気な後輩なのです。後輩たちは「みぞれは他人からどう見えているか」を教えてくれます。つまりとても魅力的なのです。「かわいくない」と思っているのはみぞれ本人だけです。
きみはたしかオーボエの…
鎧…じゃなくて、剣崎です
ああ、あはは
えっと、なに?
鎧の…じゃなくて、鎧塚先輩のことで、相談が…
二回も名前を間違えていますが、これは短期記憶の弱い自閉症なのです。
スケフェ・ニンヘンScheveningenはオランダの地区の名前です。中学生かよ。
それはともかく、希美が「リズと青い鳥」を好きだと言ったので、原作を読んでみることにしました。希美は絵本しか読んでいないので、物語についてはみぞれのほうがくわしいです。
みぞれって、ちょっと不思議なとこあるからな…
たぶんきみ
剣崎です
あと、梨々花です
りりかちゃんを嫌ってるわけじゃないと思うよ
希美が剣崎さんの名前を覚えられないのも、みぞれが不思議ちゃんなのもみぃんな自閉症だからなのです。この映画には自閉症者が希美、みぞれ、新山先生、剣崎さん、高坂さんと五人も出てきます。自閉症は芸術の才能アリということでしょうか。
お礼に、これ
コンビニのゆで卵です
味ついてておいしいです
はだかのゆで卵を人にあげるという奇行も自閉症ゆえです。「味ついてておいしい」からあげました。それ以外に意味はなく、観客に深読みさせるためだけにあります。
本がたくさんとスケッチブックがあります。動物相手では満足できず、本と絵が孤独を癒していたようです。スリッパはなくなりました。みぞれの家にはグランドピアノがあります。
はしゃいで飛び跳ねているだけです。意味はありません。
リズの靴は下履きのようです。
ねえ、あなたはどこから来たの?
わからない
たくさんの森や街を見たわ
どうしてここに来たの?
リズがひとりぼっちだったから
わたし、リズといっしょにたくさん遊びたかったの
リズと青い鳥の関係は「べったり」というのがふさわしいでしょう。ふたりは「同一化」していると言えます。中の人が一人二役なのはちゃんと意味があるのです。
待って!
どうしたの?
お願い
そばにいて
ずっと(ずっと…)
そばにいて…
(下校のチャイム)
下校の時間でーす
すみやかに退出してくださーい
「そばにいて…」で妄想中でしたが、チャイムの音で我に返って恥ずかしがっています。延滞した一カ月間、毎日これで妄想していました。
あのー
鍵、閉めるんですけど
鍵が開いている=みぞれが妄想している、なのです。鍵の開閉はだれでもいいのです。
これは音楽室の鍵を希美が開けるところなのです。
ああ、神様
どうしてわたしに
籠の開けかたを教えたのですか…
鍵の開けかた=ユリ妄想のしかた、なのです。もちろん希美もみぞれで妄想しています。
大好き!
めっちゃ努力家で、かっこいくて、運動もできて全部かっこいい!
わたし、は…
さつきの…
「大好き!」
のハグだねえ
「大好きのハグ」ですが、希美とみぞれの中学で流行ったようで、ふたりとも知っています。みぞれのこの表情は「喜びのおどろき」なのです。
みんなを引っ張って、いつも楽しそうで、すごいなって思ってる
みぞれは努力家…だよ…
「努力家」は希美がみぞれをホメるときにも使います。たいていの人にあてはまるので便利なことばなのです。
よくやったなあ…
相手の好きなところを言いあいながら、ハグするの
わたしは、いつも見てるだけで、やったこと
ないのぉ?じゃあ
ん!
なんてー
みぞれは思い切り喜んでいますが、反応がトロいのです。
イヤだった?ゴメンゴメン
希美はせっかちなのです。みぞれは大ショックです。これも「誤解」なのです。
う、うーん…
行こっ
じゃねんうん
おーっす
トリが飛ぶのは「ことばが通じた」ことの隠喩のようです。ここでは青い鳥は体を震わすだけで飛び立たなかったので、ことばが通じなかったということでしょう。鍵はかかっており、みぞれは妄想していません。
みぞれ
ん?
いえーい
あ…
いくよ
鎧塚!
進路調査票、名前しか書いてないんだが?
来週までには、ちゃんと書いて出すように。
はい
高3は5月には就職活動を始めるので、進路調査もそのあたりだと思われます。物語が終わるのは9月に入ってからのようです。けっこう長いのです。中川さんは、みぞれがいつにもましてボーッとしているのを訝しみましたが、「進路で悩んでいる」と「誤解」ました。みぞれは希美の行くところにどこであれついていく気でいます。
みぞれ、交代だよ
うん
しないの?
うう、しかたないなあ
よいしょっと
わたし、やりまーす
中川さんはみぞれの悩みが深刻だと思っています。他の人はみぞれは具合が悪いと思っています。本当は希美が「大好きのハグ」をしてくれなかったことを気にしているだけです。生物室に向かっているところです。
この場面はみぞれがおらず希美だけです。なので
のぞ先輩は、デートしたことありますか?
はぁ?
「希美はだれともつきあったことがない」こと以外はほとんど意味はありません。
フグ…
この映画のフグは「ハグHUG」とのダジャレと、あとは特殊な意味しかありません。希美がどうしてハグしてくれなかったのか考えています。
みぞれは希美とおなじところに進むつもりなのですが、「大好きのハグ」をしてくれなかったので、突き放されたのかと悩んでいます。目をつぶって希美のことを考えていたところ、顔にフルートの反射があたりました。
音楽室と生物室はおたがいよく見えるのです。
希美がみぞれに気がつきました。
フルートの反射に気づきました。
身振りでのやりとりはとてもうまくいくふたりなのです。
これは「アイスをおごってもらえる」の笑顔です。実はみぞれはスイーツに目がないのです。
希美は練習中だったらしく、みぞれが喜びにひたっているあいだに、呼ばれて引っ込みました。みぞれはとにかく「希美に去られるのが怖い」のです。メンヘルというわけではないのですが、リズと青い鳥のように自分と希美を同一化しています。最後は音楽室の希美のところに行きます。
希美も実はみぞれに恋しており、うまくコミュニケーションできたことで、うっとりトロ顔になっています。
もうすぐオーディションだよ…
だねえ…
フルートのソロはさあ、
たぶん、のぞ先輩だよね
だよぉ、上手いもん
希美のprime factorは「感情」で、本当は「表現」の素質もあるのですが、この映画ではそれが開いていないので、演奏は下手です。後輩や中川さんが希美を「上手い」と言うのは、おそらく感情過多なところが上手く思えるのでしょう。あまりセンスはないのです。この場面にかぎっては、みぞれとうまくいってトロけた演奏が上手く聞こえたのかもしれません。希美は自分に才能がないことがわかるくらいにはセンスがありますが、「表現」をホメられたと思い、うれしくなりました。この「誤解」が物語を回転させます。
(声なし:がんばろー!)
(うなずく)
オーボエの音でみぞれが来たことに気がつきました。ことばがなければこのふたりはとても通じ合うのですが。希美はみぞれがハグしてもらえなかったことを悩んでいたとは知らず、始終上機嫌ですが、みぞれも機嫌を直しました。
本やスケッチブックが片づけられ、スリッパが復活しました。青い鳥がいれば本はいらないようです。
おやすみなさい、またあした
またあした
青い鳥は今日とおなじあしたが来ると思っているようなので、希美的です。
もうじき寒くなるわ
そうね、冬が来る
もうじき冬が来るので、リズは青い鳥を解放しなければなりません。でないと死にます。みぞれ的です。これが絵本とのぞみぞの本質的な違いなのです。
羽根も鳥カゴもたいした意味はなく、リズが青い鳥を大切に思っているというだけです。「手放したくない」と「閉じ込める」はまったく違うのです。
またハグを引きずっています。自分がフグのようにかわいければハグしてもらえたのだろうか、といったところです。
おひさしぶりね
ここ、なんでわかったんですか
鎧…じゃなくて剣崎さんが、ここにいるんじゃないかって、教えてくれたの
新山先生はみぞれのためにわざわざ来ています。「名前を間違えるやつは自閉症」議論終了。新山先生はみぞれの下手な演奏しか知らないにもかかわらず、音大を勧めました。つまりみぞれの秘められた素質を見抜いたのです。
この曲では、フルートとオーボエが、リズと青い鳥をあらわしていると言われているわ。
ん…
第三楽章のソロのかけ合いは、きっとリズと少女の別れ
希美?昨日辞めたじゃんあれ、鎧塚さん知らなかったっけ
知らない…
わたしには、青い鳥を逃がしてやるリズの気持ちが、よく理解できません
そう
みぞれの考える「青い鳥を逃がしてやるリズの気持ち」は、「だまってひとりで退部した希美の気持ち」のことです。退部事件はみぞれの心に大きな傷を負わせ、もう二度とあんな気持ちを味わいたくないのです。
ハグではじまりハグで終わるのです。
そうだ、今日はね、鎧塚さんにお話があって来たの
鎧塚さん、あなた、進路は決まってる?
新山先生は外部の人なので進路調査票のことは知りません。先生はセンス最強で、みぞれの素質を見抜いて音大を勧めにきました。みぞれが進路を決めていなかったのは「たまたま」なのです。実は先生は希美の素質も見抜いていたのですが、活発な希美はほっておいても音大に行くだろうと思っていました。もしくは、新山先生は木管楽器の人なので、フルートのことはわからないのかもしれません。
あ、いいね!
ホメられて上機嫌な希美です。
みぞれ!
なにしてたの!?
フグにごはんあげてた
あいかわらず上機嫌です。
ハマってるの?フグ
うん、かわいい
今度、わたしも行っていい?
うん
希美も、いっしょに
みぞれが力強くうなずき、かなり感情を出しています。フグに自分を投影しているようです。みぞれにとってフグ=ハグは「かわいい」、自分は「かわいくない」で、普通の人とはちょっと感覚が違うのです。
あ、それ、なに?
これ、パンフレット…?
うん、それはわかるよ
ことばの微妙な通じなさなのです。
見てもいい?
うん
音大のパンフレットかぁ、へえ…
あれ、てゆっかこれ
みぞれ、音大受けるの?
新山先生がくれた
興味ある?って
ふぅん
希美?
わたし
ここの大学、受けようかな?
髪で目が隠れて、非常に不穏な感じなのです。この時点での希美は
- 感情豊か=音楽への憧れは強いが
- 才能がない、お金もないので将来はなく
- みぞれといっしょだからつづけているが
- とても苦しい
といったところですが、後輩にホメられたことで、つい夢を見てしまいました。しかし純粋な気持ちで口にしたため、「特待生+奨学金で音大に行く」未来を示唆しています。究極のハッピーエンドなのです。
はっ
じゃあ、わたしも!
へ?
希美が受けるなら、わたしも
みぞれは希美が進路を口にしたのがうれしいのです。どこにでもついていくつもりなのです。この時点のみぞれには音楽へ情熱はありません。