映画『リズと青い鳥』は数学ダジャレ映画なのです!その3:Bパート
引用符のついているスクショが時系列に沿っています。
今日からまたコンクールに向けて
橋本先生と新山先生にも、しばらく練習に参加していただきます
えー、三年生と二年生のみんなはお久しぶりー
一年生ははじめまして
橋本です
断定はできないが、新学期になったようです。新山先生と橋本先生は学外者です。新山先生はみぞれが進路調査票を白紙で出したことを知らないまま音大を勧めました。また、生徒の演奏のまずいところを直すのは指導者の義務なので、直さない=問題ない、です。
ふたりは身振りはよく通じるのです。
浮かない顔の橋本先生と、すました顔の新山先生です。
みぞれ!
ソロのとこさあ、あとでもうちょっとやってみよっか
うん
センスのレベルは
- S: 新山先生、希美(素質)、みぞれ(素質)
- A: 部活顧問、橋本先生、希美、みぞれ、高坂さん、剣崎さん
- B: その他部員
です。赤字は自閉症で、空気が読めません。木管楽器の新山先生は希美とみぞれの素質を見抜いています。顧問やパーカッションの橋本先生はふたりの素質は見抜けていないが演奏が下手なことはわかり、部員はふたりは上手いと思っています。自分より上のレベルは評価できないのです。顧問や橋本先生は自分の楽器の奏者の素質なら見抜けるのかもしれません。
新山先生
あら
お久しぶりです
傘木…さん
今年も木管の指導、よろしくお願いします
今年はコンクールメンバーでの参加なのね
よろしくね
はい!
フルートは金属製ですが、木管楽器だそうです。みぞれから新山先生に声をかけています。新山先生は
- 去年も希美を指導した
- 希美の名前を覚えている
- 希美がコンクールに参加することを知っている
です。つまり希美の演奏をよく知っており、演奏を向上させる義務があるにもかかわらず個別には指導しませんでした。これは「希美には指導するほどの問題はない」という認識でいるからです。希美の演奏がずっと下手だったことは間違いがないので、素質を見抜いていたからにほかなりません。みぞれとの違いは「音楽への情熱」の有無でしょう。
わたし、音大、受けようと思ってて
あら、そう…
がんばってね
わたしでよかったら、なんでも聞いてね
はい!
じゃ
はい!
新山先生は空気が読めないので、希美には指導しなくてもだいじょうぶだと思っているのが態度に出ただけです。希美はまだ覚醒みぞれの演奏を聞いておらず、自分と同レベル、追いつける程度だと思っていたので、理由がわからないまま「みぞれをえこひいきした」と思いました。
うひゃー
けっこう激しい雨です。直前に新山先生が口にしましたが、希美の姓は「傘木」なので、これは希美の心境なのでしょう。
うーん
これ、こないだ一回聞かせてもらったとき思ったんだけど…
これ、オーボエとフルートのかけ合いのとこ、だいじょうぶ?
また「かけ」合いです。
それでー、なんとかっていうフグのところまで行ってー
うん
この魚見せたかったって
へえー
わたしに、ソックリだって
かわいいんでしょ?その魚
でもフグなんですー
かわいいならいいじゃん
希美が新山先生がみぞれを指導するのを見ています。
ねえ希美?
えっ?
あ、うん
うわの空で返事をしました。希美は後輩の話を聞いていないので、フグは話には関係ありません。
わたし、太ってるってことかも
つぼ先輩の服
やっぱり入んなかったんですー
だーいじょーぶ、そのままで十分かわいいよー
みぞれが手を振るのを希美は無視しました。希美は新山先生に腹を立てていただけで、みぞれに思うところがあったわけではありません。というか、みぞれが手を振っているのが目に入らなかったのでしょう。みぞれは拒絶されたと思って大ショックです。
希美
ああ、みぞれ
おつかれ
じゃね
希美はみぞれには思うところはないが、いくらか気まずいです。
希美!
希美が白目を剥いています。
ん?
なにか、怒ってる…?
ないよ
希美は新山先生に怒っています。もし怒っていないなら、「ないよ」ではなく「なにが?」という反応になるはずです。
じゃあ、してくれる?
ん?
みぞれは希美に拒絶される理由が見当もつきません。かわいいことをすると機嫌を直すだろうと思っています。
今度ね…
希美がハグをしなかったのは
なにか、怒ってる…?
ないよ
じゃあ、してくれる?
みぞれは「怒っていないなら、ハグをしてくれ」と言ったが、希美は新山先生に怒っていたので、ハグできませんでした。希美も自閉症なのです。みぞれを傷つける意図はありません。
みぞれは理由はわからないが自分が拒絶されていると確信してしまいました。「誤解」です。希美もみぞれの気持ちがわからないまま、新山先生を誤解したままです。
わたし
ここの大学、受けようかな?
みぞれが知っているのはこれが全部なので、希美の葛藤を知り得ません。
どうするの、第三楽章ん…
うん
みぞれと、ちゃんと合わせないと
うん、そうだね
うまくいってないの?
なにが?
みぞれと
そんなことないよ
まあ、本番までまだあるし
それまでにはなんとかするよ
全日本吹奏楽連盟のコンクールは10月下旬にあるようです。
高坂さんと黄前さんが、希美とみぞれのパートを演奏しています。
演奏が聞こえたので、みぞれが窓を開けましたが、また閉めて去っていきました。二つ目のスクショにトリが一匹だけ窓に映っています(首のところ)。
なんか、強気なリズって感じだったね
じゃあ、元気でな、って感じ
高坂らしい…
たぶんそう
わたしさあ
本当に音大行きたいのかな…
高坂さんと黄前さんの気持ちが通じたということでしょう。希美とみぞれは気持ちが通じていません。希美は
- とくにやりたいこともないが、みぞれがいるので音楽をつづけている
- 音大には金銭的にも手が届かないが、つい夢を見てしまった
- 自分とみぞれは同レベルであまり上手くない
- なのに新山先生はみぞれにだけ熱心
という認識です。本当は
- 希美には音楽への情熱がある
のですが、表現が苦手なため、それを自覚できていません。希美はみぞれへの感情をふくめ、自分の気持ちがよくわかっていないのです。みぞれの気持ちは希美しか目に入らないシンプルなものだから、自分でよくわかっています。さらに、後輩の演奏を聞いて、「自分らしい表現ができていない」ことを実感し、本当は「みぞれ>希美」ではないかと疑いはじめました。
あの、ソロ…
わたしやっぱりわからなくて
みぞれはハグのことが頭から離れません。
鎧塚さんは、あのソロで、なにを表現しているの?
リズの…気持ち…
どんな?
仲良くなった青い鳥を、鳥かごから出して、自由に
それはリズの行動で、気持ちではないわね
気持ちは…
わたしには、わからなくて
好きな人を自分から突き放したりなんか、できないから
理解できないし、わからないです
みぞれは希美がなぜ自分を拒絶するのかわかりません。希美にはそんなつもりはまったくないので当然ですが。
フルートは好きだけど、そもそもわたし、プロになりたいのかなーって
仕事にするのと、楽器つづけたいは、おなじじゃないし
あと、まあ、お金もかかるじゃん?
個人レッスン行ったりしなきゃだしさ
希美はお金がない現実はわかっているので、「音大に行きたい」は夢を見ているだけでしたが、我に返りました。「自分は音楽の才能をほめられたいだけじゃないのか」と考えています。新山先生に「みぞれと差をつけられた」ので、自分に才能がないと考えていますが、それについては口にしません。
ふたりみたいに
普通大学行ったほうがいいんじゃないかなーって
それ、みぞれは知ってるの?
部長はみぞれ、中川さんは希美の理解者です。
知らないよ?
なんで?
なんでって
いっしょの音大行こうって言っといて
なのに、プロになるのは違うからやめますって、なに?
優子…
希美は「いっしょの音大行こう」とは言っていません。ちなみに
高坂…
高坂さんをたしなめたのは部長です。部長や中川さんはバランスタイプのようです。二人とも円満ですぐれた人格の持ち主であることは間違いないのですが、「もっとズケズケ言ったほうがよい」というのがこの作品や『聲の形』にかぎらず、『魔女見習いをさがして』など最近のアニメに共通する価値観のようです。
希美が受けるなら、わたしも
みぞれから自分も受けると言い出しました。
希美が受けるから、わたしも
部長が聞いたのはこれだけです。みぞれはいつも自分の意志を出さないので、希美が誘ったと誤解しています。
一年のときだって、みぞれにだまって部活辞めて
やっぱりやりたくなったからって戻って来て
どれだけみぞれを振り回したら
優子
部長はみぞれが希美に拒絶されたと思い込んでいることを知らないので、このセリフは一般論のヒントです。たしかに希美はすこし無責任な感じがしますが、自分の気持ちがわかっていないだけです。社交性の高さはその先手を打っているのかもしれません。
希美?昨日辞めたじゃん
あれ、鎧塚さん知らなかったっけ
退部事件がみぞれに大きな影響を与えたことを示しています。
近くにいるからって、なんでもかんでもみんな話すわけじゃないもんね
うん…
中川さんのセリフも一般論のヒントになっています。この映画でも話されていること以外が重要です。
鎧塚さんは、きっと好きな人を大切にしすぎてしまうのね
そうね…
じゃあ、もし鎧塚さんが青い鳥だったら?
どうやらフルートとオーボエがそれぞれリズと青い鳥のどちらかを担当するわけではなさそうです。
青い鳥はあの日、突然リズに別れを告げられる
昨日まで、ふたりでしあわせに暮らしていたのに
リズが青い鳥を解放するのは、もうすぐ冬が来るからです。渡り鳥は寒くて死んでしまいます。これは青い鳥だけの特殊事情です。
あなたは自由になるべきよ
そのしなやかな翼で、どこまでも高く飛んでいけるはず
ベリーにはたいした意味はありません。
どうして?わたしはずっとリズといたい
リズといることだけがわたしの喜びなのに
「希美といることだけがみぞれの喜び」です。
わたしはあなたを閉じ込める鳥かごだわ
あなたには羽がある
あなたには、どこまでも広がる大きな空があるの
あなたから、その翼を奪ってはいけないわ
さあ、ここから出て、高く遠く羽ばたいて
その美しいあなたの姿を、どうかわたしに見送らせて
これが、わたしの愛のありかた
愛してるわ
リズは決してウソは言わないが、言うことは観客を混乱させるだけです。
カットバックでややこしいですが、希美とみぞれはおたがいの会話を知りません。知っているのは観客だけです。この映画には希美がみぞれに嫉妬している描写はありません。
どう?青い鳥は飛び立てたかしら
リズが…
リズがそう言ったから受け入れた
トリの剥製にも意味はありません。
リズの選択を、青い鳥は止められない
だって青い鳥は
リズのことが大好きだから
悲しくても、飛び立つしか、ない…
これはみぞれの特殊事情です。一般論としては、ぜんぜんそんなことはありません。
青い鳥は不幸だった?
わからない…
青い鳥の気持ちは描写がないので、別れを悲しんでいること以外はだれにもわかりません。
でもリズに、しあわせになってほしいって、思ってる
それだけは、きっと本当…
青い鳥はリズが好きなので、これは一般論としてただしい。
それが青い鳥の愛のありかた
飛び立つしか、ない…
こちらはみぞれが考える特殊事情です。特殊事情と一般論を交互に混ぜて、観客を混乱させています。
進路調査の紙、白紙で出したのみぞれだけじゃない
わたしもだよ
でもさ、
新山先生が声かけたのって、みぞれだけなんだよね
希美は自分が表現下手なのは自覚しており
フルートのソロはさあ、
たぶん、のぞ先輩だよね
だよぉ、上手いもん
それゆえ他人にほめられたかったのですが、新山先生の態度から「希美<みぞれ」だと疑いはじめています。
足をすこし伸ばして戻すところは、なかなかにつらそうです。
わたし、ずっとリズに自分を重ねようとしてました
はっ
リズと青い鳥ってさあ、わたしとみぞれになんか似てるなって思ってた
みぞれが
リズで
希美が
青い鳥
でも、いまは
(音声なし)
「みぞれがリズで、希美が青い鳥」は
きれい…
このイメージです。「でも、いまは」には「希美がリズで、みぞれが青い鳥」とつづけたくなりますが、最終的にはどちらもリズでどちらも青い鳥です。
これは渡り鳥の群れだと思われます。
わたしが
あの子を愛するばかり、美しい翼を奪ってしまった
「翼を奪った」というのは
リズといることだけがわたしの喜びなのに
青い鳥にこう言わせてしまったことです。リズはそれ以外になにもしていません。
あの子は
どこまでも飛んで行けるのに
ああ神様
どうしてわたしに
リズは神様に青い鳥のしあわせを祈っていますが
みぞれは羽根にチューしています。
籠の開けかたを教えたのですか
希美は「自分がリズ」だと思ったので、リズの気持ちを理解すべくセリフを口にしています。鍵を開ける=妄想をはじめる、なので、「ああ神様、どうしてわたしは、みぞれを好きになったのですか」と読み替えることができます。これはユリ映画ですから!
では、全体練習を始めましょう
まずはじめに
すみません
第三楽章、通してやってもいいですか
みぞれが自分から意思表示したのははじめてだと思われます。
希美は驚き
新山先生はドヤ顔
…いいでしょう
顧問もなにか感じ取ったようです。
みぞれはヤル気です。
新山先生が見ているのはみぞれです。
希美はやりづらそうです。
たいした意味はありません。
みぞれはよく動くようになりました。
抑圧していた感情を取り戻した、ということのようです。
希美は泣いていますが、決して嫉妬しているわけではなく、むしろみぞれに才能があったことを喜んでいます。
橋本先生がたまげています。
コーチというのは「エースをねらえ!」の昔からドヤるものなのです。
希美はみぞれを見ています。
すごいです、先輩
圧倒されました自分の演奏に集中できなくなっちゃいました
みぞれ、本当にすごかった
高坂さんはセンスAですが、他の部員はわかりません。一目瞭然だったのでしょう。
みぞれに部員が寄ってきたあいだに希美が楽器を置いたままいなくなりました。みぞれと顔を合わせたくなかったようです。
希美が向かったのは生物室でした。希美と生物室の縁は
ハマってるの?フグ
うん、かわいい
今度、わたしも行っていい?
うん
希美も、いっしょに
これだけです。希美はみぞれが追いかけてくることを(無意識に)期待していたと思われます。
この時点での希美は
- 感情豊か
- 音楽にかぎらず表現が下手
- お金がない
- 音楽の才能は「みぞれ>希美」だと誤解している
- みぞれには嫉妬していない
みぞれは
- 感情が貧しかったが、取り戻しはじめた
- 表現はもとから上手い
- お金持ち
- 希美に突き放されたと誤解している
- 希美の葛藤を知らない
です。共通するのは
- 相手に恋している
- 相手と自分を同一化している
- 相手の気持ちがわからない
です。
リズといることだけがわたしの喜びなのに
希美も青い鳥でもあるので、「みぞれといることだけが希美の喜び」なのです。
希美が演奏前に最後にみぞれに会ったのは
このときです。希美はみぞれの演奏が急に上手くなった理由を知らないので、「ハグに応えなかった」ことがみぞれの才能を開花させたと考えました。つまり、理屈は分からないが、自分の態度がみぞれの才能を閉じ込めていたと「誤解」したのです。
希美が放心しています。「新山先生は正しく、才能はみぞれ>希美である」と理解したからです。誤解ですが。
希美…
みぞれ…
希美、泣いてるの?
ううん
どこからどうみても泣いていますが、みぞれは希美が泣いている理由は見当もつきません。みぞれの認識は「理由はわからないが、希美は自分を突き放している」です。しかしみぞれは
希美が決めたことが、わたしの決めたこと
なので、理由はわからなくても突き放されることにしました。その結果、みぞれは抑圧していた感情を取り戻したのです。生物室の場面ではみぞれはかなり感情を見せるようになります。
だいじょうぶ?
みぞれさあ
いままで手加減してたんだね
えっ?
わたしのレベルに合わせてたから
いままで全力が出せなかったんだ
違…
わたしバカだねー
みぞれに「がんばってー」とか言って
みぞれが本気出せないの、わたしの実力が足りてないだけだったわ
違う…
希美は「大好きのハグをしなかったことで、みぞれは才能を開花させた」という認識ですが、完全な誤解です。みぞれはいままでは全力だったのですが、感情そのものが乏しかったのです。なのでみぞれは希美の言っていることがまったく理解できません。
新山先生に音大勧められたの、みぞれだけだもんね
わかってたけど、みぞれ昔から上手いもんずるいよ、みぞれは
ホントずるい
希美はセンスAなので、みぞれの表現の上手さは昔からわかっていました。みぞれが才能を隠していたというか、気持ちをあらわさないことを「ずるい」と言っています。
希美…
わたしさあ、みぞれに負けたくなくて
…
なんか、同等になれるかなあって思って
おなじ音大行くって言った
わたし才能ないからさ
みぞれみたいにすごくないから
「音大行く」って言ってれば、それなりに見えるかなってって思って
希美…
わたし、みぞれみたいにすごくないから
希美は自分が表現下手なのは自覚しています。みぞれと違って音楽への情熱はあるので、苦しい思いをしてきました。 なので新山先生が自分と同レベルだと思っていたみぞれに音大を勧めたときに夢を見てしまいました。みぞれは「コイツなに言ってんの?」という表情です。
わたし、普通の人だから
違う…
希美は自分には才能がないと言っていますが、みぞれにとっては才能関係なく希美は特別な人です。自分を「普通の人」と認めるのはかなり辛そうです。
みぞれはさ、これからきっと、広い世界に出て行くんだよね
「リズと青い鳥」は、なんとかみぞれの演奏に見合うようにがんばるよ
希美…
希美はみぞれと自分を同一化していましたが、「才能のない自分」と「才能のあるみぞれ」に分離してしまったので、身を引き裂かれるような苦しみを味わっています。芸術家の矜持として、断じて嫉妬はないのです。
みぞれのソロを支えられるように
聞いて!
はっ
希美は、いつも勝手…
みぞれがかなり感情的になっています。
一年生のときだって、勝手にやめた
わたしにだまって
ふん
昔のことでしょ?
昔じゃない、わたしにとってはずっといま
わたしは、ずっと希美を追いかけてきた
希美に見放されたくなくて、楽器もつづけてきた
わたしのいちばんはずっと希美
希美といっしょにいたいから
オーボエもがんばった
希美といられればなんだっていい
希美はみぞれの言っていることは理解したが、なぜそうなのかがわかりません。
そんな大げさなこと言わないでよ…
大げさじゃない!
全部ホント
ずるいよ…
ずるい=本当のことを言わない、なのです。
希美が
わたしの全部なの
みぞれは希美に恋しているからですが、希美はみぞれがそこまで言う理由がまったくわからないので、困惑しています。
わたし、みぞれが思ってるような人間じゃないよ
むしろ、軽蔑されるべき
希美は自分を卑下しはじめました。みぞれは自分から飛び立つべきだと思っているからです。
希美は、わたしの特別
希美にとってなんでもなくても
わたしには全部、全部特別
うーん
なんでそんな言ってくれるのか、わかんな
みぞれは自分の気持ちを過不足なくことばにできるようになったのですが、気持ちがやや特殊なため、希美はわかりません。
どうしたの…
大好きのハグ
これはかわいいではなく、本当に大好きのハグです。みぞれはゲージが振り切れています。
ユリ的な意味で大好きなのです。みぞれっちってばダイターン!みぞれは一度ハグを拒否られており、また拒否られるとあとがないので、ここはある意味賭けです。
希美はすこし戸惑いましたが、受け入れました。
わたし
希美がいなかったら、なんにもなかった
楽器だってやってない
希美が、声かけてくれて、友だちになってくれて、やさしくしてくれて
うれしかった
ごめん、それよく覚えてないんだよ
みぞれの作戦その1は失敗でした。
みんなを引っ張って、いつも楽しそうで、すごいなって思ってる
みぞれは、努力家…だよ
作戦その2も失敗でした。一般論ではダメなのです。みぞれは考え考え言っているようです。
めっちゃ努力家で、かっこいくて、運動もできて全部かっこいい!
努力家はたいていの人にあてはまるのです。表現の下手な希美はことばが出なかったのです。
希美の笑い声が好き
希美の話しかたが好き
希美の足音が好き
希美の髪が好き
希美の…
希美の、全部…みぞれのオーボエが好き
個別論の作戦その3は大成功でした。「みぞれのオーボエが好き」は半分無意識のことばです。なぜ成功したのか?それは
みぞれの笑い声が好き
みぞれの話しかたが好き
みぞれの足音が好き
みぞれの髪が好き
みぞれの…
みぞれの、全部…
希美の気持ちとまったくおなじだったからです。
ハグです。
みぞれの気持ちが通じ、希美は「みぞれは希美が大好き」を理解しました。
希美は、どうしてもことばにできなかった「みぞれのオーボエが好き」を口にできたことに気がついて、愉快になりました。これで希美の表現も覚醒しました。
希美…
希美が「大好きのハグ」でみぞれを抱き返したので、みぞれも「希美もみぞれが大好き」を理解しました。ふたりはおたがいわかり合えたのです。パーフェクトユリの爆誕です。
ありがとう
ありがとう、みぞれ
ありがとう
「気持ちをことばにさせてくれてありがとう」です。みぞれの顔が赤くなっているので、気持ちが通じたことがわかります。
うん、よし、帰らなきゃ
荷物取ってくるね
希美が向かったのは非常口とは反対なのです。三角形は意味はありません。
希美の心境がピンチだったということかもしれませんが、たいした意味はないでしょう。
キミ
鎧塚さんっていうの?
部活、入ってる?
あー、じゃあ、帰宅部かあ
なにも入ってないんだ
じゃあ、吹奏楽部に入らない?
希美は中学のときにみぞれと出会ったときのことを思い出しました。希美にとって、みぞれの第一印象は
きれい…
たぶんこれです。おたがい一目ボレなのです。
ふたりの気持ちが通じ合いました。