映画『リズと青い鳥』は本当はこんな話なのです。
- 希美とみぞれのどちらもがリズかつ青い鳥
- 音楽に必要な「感情」と「表現」のうち、希美は感情は豊かだが表現が貧しく、みぞれは逆に感情は貧しいが表現が豊か
- しかし両者とも素質がある
- みぞれの素質が花開き、希美もそうなることを予感させてハッピーエンド
- 最後の図書室の場面で1カットだけ映る数学の問題が、この映画のテーマをあらわしている
- ふたりの本当の問題は、ことばが通じなかったこと
たぶん原作小説を魔改造しているのです。
noteではトピックごとに見ていきましたが、はてなブログでは頭から順番に見ていきます。引用符のついているスクショが時系列に沿っています。
リズは動物には慕われるが、孤独であることがわかります。
希美の社交性は振舞いにすぎず、本当は孤独を感じていると思われます。みぞれは言わずもがな。
きれい…
作中からスクショを拾ってくると
首の傾げかたから希美が青い鳥、目の丸くしかたからみぞれがリズだとわかります。中学生のみぞれが感じた希美の第一印象は「きれい…」でした。
早朝、みぞれは先に登校して希美を待っています。「希美いるかな?」と思ってターンしました。
希美の場合はみぞれがいることがわかりきっていますが、基本的にはこれとおなじです。みぞれは不愛想ですが感情表現が下手なのではなく、ある理由により感情を抑圧しています。
希美を足音を聞きつけて、ものすごい勢いで振り向きますが、みぞれは希美にある感情を抱いています。
映画の始まりでは、みぞれは希美を追いかける立場にいます。上下は関係ありません。
あ、なにこれ、めっちゃ青い
きれー
「きれー」です。
…ありがとう…?
なんで疑問形なの?
みぞれは自分の感情を考え考えしゃべっているように思えます。
とてもそうは見えないが、とてもうれしい。
二つのスクショのトリは別々ですが、巣でもあるのか二羽とも木に吸い込まれていきます。希美とみぞれはどちらも青い鳥のようです。
この映画は実は「鍵」にもたいした意味はありません。
希美ターンなのです。
希美は一段飛ばしで階段を上っています。
希美が振り返ります。上下は関係ありません。この場面はブレイク・スナイダー『SAVE THE CATの法則 SAVE THE CATの法則』の言うところの「オープニング・イメージ」に相当します。
最後、希美は図書室へ、みぞれは音楽室へ。スナイダーの「フィナーレ」です。
《フィナーレ》では新しい世界が生まれる。だから主人公が勝利しただけじゃ充分じゃない。世界を変えなきゃいけないのだ。本当に良かったと満足がいくように。
本編最後のカットです。「ファイナル・イメージ」です。
《ファイナル・イメージ》は《オープニング・イメージ》と対のビートであり、本物の変化が起きたことを見せる場である。
見た目ほとんど変わりませんが、いちばん大きな変化は「おたがいことばが通じるようになった」です。この映画はコミュ障の話だったのです。
みぞれ、わたし、みぞれのソロ、完璧に支えるから
こちらはこのセリフを希美が口にする ことに意味があります。なのでフェイク、というと言い過ぎですが、フィナーレでもファイナル・イメージでもありません。
この影の形はトリの影としても使われます。
中学生のときから関係性はかわっていないようです。
みぞれは音楽室の鍵を開けていますが、希美は後ろからのぞき込んでいるのではなく、みぞれの髪の匂いをかいでいます。
希美の笑い声が好き
希美の話しかたが好き
希美の足音が好き
希美の髪が好き
希美の…
希美の、全部…
最後の生物室の場面の、「希美」と「みぞれ」を入れ替えて
みぞれの笑い声が好き
みぞれの話しかたが好き
みぞれの足音が好き
みぞれの髪が好き
みぞれの…
みぞれの、全部…
とすれば、アバンパートの意味がわかるはずです。
あとでわかるが、鍵を開いている=みぞれが妄想している、なのです。
希美ターンが一回転しました。
英語のdisjointには「互いに素」という意味があります。
二つの整数 a, b が互いに素(たがいにそ、英: coprime, relatively prime, prime to[1])であるとは、a, b を共に割り切る正の整数が 1 のみであることをいう。このことは a, b の最大公約数 gcd(a, b) が 1 であることと同値である。a, b が互いに素であることを、記号で a ⊥ b と表すこともある[2]。なお、「互いに素」を意味する英単語には coprime と disjoint があるが、coprime は整数について「互いに素」「共通点を持たない」という意味で使用される。
劇中でも説明があります。
たとえば、2と3、4と5のように、最大公約数が1以外の共通した約数がない関係、そのような二つの数字、それを互いに素と言うわけです
最後に希美が図書室で数学の証明問題をやります。
2つの自然数x,yに対し「xとyは互いに素」ならば、「x+yとxyは互いに素」であることを示せ。
希美の書きかけの解答はこうです。
「x+yとxyは共通の素因数Pをもつ」と仮定すると
x+y = Pa …(1)
xy = Pb …(2)
xがPの倍数のとき
x = Pc (cは自然数)
「素因数」とは
素因数(そいんすう、英: prime factor)とは、数学における自然数の約数になる素数のことである。
希美は行き詰っていますが、正しい証明はこうつづきます。
(a,bは自然数)
「xとyは互いに素」と(2)から、Pはxの素因数か、yの素因数かのどちらかであり、両方の素因数ではない。
(1)の両辺をPで割り
x/P+y/P = a
を考えると、x/Pとy/Pの一方は自然数であり、もう一方は自然数ではない。しかしaは自然数だから、この等式が成り立つことはない。仮定が誤りであり、x+yとxyは共通の素因数を持たない、つまり互いに素である。(証明終)
難しい問題ではありません。背理法を使うことは知っているので、授業はまじめに聞いていたようですが
国公立専願ではちょっと厳しい数学力です。希美は苦手を自覚していたからまっさきに数学の勉強を始めたのでしょう。なぜ数学のない私学を志望しないのかというと、お金がないからです。音大などはなから無理な話だったのです。希美は個人レッスンどころか、自宅で練習することもなかったと思われます。
あと、まあ、お金もかかるじゃん?個人レッスン行ったりしなきゃだしさ
さて、素因数は英語でprime factorです。primeとfactorの辞書的な意味は
prime1
音節prime 発音記号・読み方/prάɪm/発音を聞く
形容詞限定用法の形容詞
(比較なし)
1主要な,主な,最も重要な.
a prime concern 最大の関心事.
2優良の,最良の,第一等の; すばらしい,極上の.
prime beef 極上牛肉 (⇒beef 【関連】).
3根本的な,基礎的な,本質的な.
factor
音節fac・tor 発音記号・読み方/fˈæktɚ|‐tə/発音を聞く
名詞可算名詞
1(ある現象・結果を生ずる)要因,要素,原因 〔of,in〕《★【類語】 ⇒element》.
a factor of happiness 幸福の(一つの)要因.
2代理商,問屋,仲買人.
3【数学】 因数,因子.
a common factor 共通因子, 公因数.
こんな感じです。この映画のprime factorには「素因数」以外に「最良の要因」といったダジャレ的な意味があり、具体的には、音楽に必要な才能である「感情」と「表現」がprime factorです。アバンパートの「disjoint」は「希美には感情はあるが表現がなく、みぞれには感情はないが表現はある」という意味です。最終的にはふたりとも「感情」「表現」の両方を手に入れることになります。自宅にグランドピアノのあるみぞれは金持ちなので「お金」もprime factorのようです。
数学の問題に戻って
2つの自然数x,yに対し「xとyは互いに素」ならば、「x+yとxyは互いに素」であることを示せ。
xyの素因数はxの素因数とyの素因数のどちらか由来でしかありませんが、「x+yとxyは互いに素」だから、x+yの素因数はxにもyにも由来しない、まったく新しいものです。
傘木さん、オーボエの音を聞いていますか
悪くはありませんが、すこしあなたのほうが、感情的になりすぎることがある
この部分は、おたがいの音を聞くことが、なによりも大事です
あなたから鎧塚さんへ、そっと語りかけるように
できますか?
鎧塚さん
ここは、オーボエとフルートのかけ合いがなにより大事です
あなたも、フルートからの問いかけに、答えなくてはなりません
あーあ、これ
こないだ一回聞かせてもらったときに思ったんだけど
これ、オーボエとフルートのかけ合いのとこ、大丈夫?
第三楽章のソロのかけ合いは都合5回も「かける」と言っています。ふたりの合奏はxyなのですが、「ファイナル・イメージ」でx+yに変わります。
きっとリズと少女の別れ
みぞれ、わたし、みぞれのソロ、完璧に支えるから
「支」の字は「又」の上に「+」があるのです。