映画『君の名は。』は過去を改変する話ではなく平行世界の話です。この世界の瀧と別の世界の三葉が入れ替わります。この映画はラジオドラマ『君の名は』をなぞっています。
ババア
一葉:糸の声を聴いてみない
一葉:そうやってずーっと糸を巻いてるとな
一葉:じきに糸と人のあいだに感情が流れ出す
四葉:糸はしゃべらんもん
三葉:集中しろってことやよ
三葉、四葉、結びって知っとるか?
結び?
土地の氏神様をな、古いことばで結びって呼ぶんやさ
このことばには深ーい意味がある
糸をつなげることも結び
人をつなげることも結び
時間が流れることも結び
全部神様の力や
わしらの作る組紐もせやから
神様の技、時間の流れそのものをあらわしとる
寄り集まって形を作り
ねじれてからまって
ときには戻って途切れ、またつながり
それが結び、それが時間
飲みない
三葉:ありがとう
四葉:つぎわたしも
それも結び
ハハハハ
水でも米でも酒でも
人の体に入ったもんが
魂と結びつくこともまた結び
だから今日のご奉納は
神様と人間をつなぐための
大切なしきたりなんやよ
一葉:ここから先はカクリ世
四葉:え?
一葉:あの世のことやわ
四葉:あはっ
四葉:あの世やーっ!
一葉:此岸に戻るには
一葉:あんたらの一等大切なもんを、引き換えにせにゃならんよ
三葉:えっ?
一葉:フフフ
一葉:口噛み酒やさ
三葉:口噛み酒…
一葉:ご神体にお供えするんやさ
一葉:それはあんたらの半分やからな
三葉:(三葉の…半分…)
「このことばには深ーい意味がある」のだから、ババアはとても大事なことを言っています。それは
- 組紐を渡して相手を自分に恋させるラブハントができる
- 口噛み酒には巫女の魂の半分が入っている
- 御神体から戻るときに、その人の一番大切なものを取られる
です。これ以外のババアの発言はすべて観客を混乱させるためだけの意味のないことばです。
ストーリー
この映画の主人公の瀧は特殊な体質を持っています。それは
- ある人が実在していることを信じられなくなると、その人の名前を失う
- ある人が生きていることを信じられなくなると、その人の記憶を失う
です。これはあくまで信念の話です。事実と異なる信念を持つことができます。事実をつきつけて信念を持たせたり揺るがせたりすることができます。
「名前」はある人が別の人ではないことを保証するはたらきのことです。名乗ってもらうことで顔と名前の発音が一致すると、名前を手に入れることができます。名前を失うと、相手はかわりに「Xさん」という、だれでもない人になります。Xさんはだれでもないのだから、考えようとすると頭がもやもやします。
「記憶」は「その人とたしかにそういうできごとがあった」という信念です。信念だから事実でなくてもかまいません。「三葉と会った」という記憶があるときに、三葉の名前を失うと「Xさんと会った」という記憶になります。たしかにだれかと会ったし、そのことはよく覚えているが、肝心の相手がだれなのかさっぱりわからない、そういう記憶です。
「恋」は気分であり、一度手に入れるとなくすことはありません。「三葉に恋している」はビビッドな感情ですが、「Xさんに恋している」はその気分だけ残ったものです。誰かに心焦がしてはいるのだが、それがだれなのかわからない、そういう感情です。恋は一つしかなく、二人以上に同時に恋することはできません。
この、大事な相手なのに思い出せないという焦燥感をともなう感覚が、『君の名は。』がもっとも描きたかったものです。
瀧は三葉と実の姉弟で、幼いころ糸守にいました。映画『君の名は。』完全全全解説:㊙近親相姦編に書きました。
二葉:あなた、お姉ちゃんになったんやよ
二葉が身ごもっているのが瀧です。四葉だとすると三葉が小さすぎます。
瀧は幼いあいだは糸守にいたのですが、東京に預けられました。中学生のときに彼女と偶然再会しラブハントされ、三葉に会ったという記憶と、彼女への恋を手に入れました。
翌日のティアマト彗星の災害のショックで、瀧は糸守や三葉の名前や記憶をすべて忘れてしまい、「Xさんに恋している」という気分だけが残りました。三年後、瀧が高校生のとき、彼のいる世界Aとは異なる世界Bの三葉とのあいだで入れ替わりがありました。
勅使河原:わかった。それって
勅使河原:前世の記憶、 もしくはエヴェレット解釈に基づくマルチバース無意識が接続したっちゅう
世界AやBの三葉のことを三葉AやBと書くことにします。入れ替わると相手が生きていることを信じざるをえません。三葉AとBはおなじ身体だから、名前を忘れたまま「Xさんと会った」記憶が復活しました。
三葉:瀧くん…瀧くん…
三葉:覚えて…ない?
その復活した記憶を
起きる直前に夢に見たのがこれです。入れ替わった瀧は鏡を見ます。
彼が鏡にしがみついてるのは、自分の顔がよく知っているXさんの顔になっていたからです。もし知らない顔であれば、ここまで近づけるとかえってよく見えないのです。
瀧は鏡を見て顔を、手のひらに書いてもらって「みつは」という発音を知り、それを一致させ三葉Bの名前を手に入れました。彼は三葉Aと三葉Bが別人だと思っているので(事実です)、三葉Aの名前は復活しません。失われた三葉Aのかわりに三葉Bで置き換えた「三葉Bに会った」という、事実とは異なる信念を彼に抱かせ、「三葉Bに恋している」というビビッドな恋を復元するのがこの映画の中心テーマです。
瀧
「前に見たこのあたりの建築物」と瀧in三葉が書いています。つまり瀧は入れ替わっているときの記憶を忘れません。精細なスケッチを描けたのもこのためです。ただし日付は忘れるようです。
糸守訪問から始めます。瀧は三葉Bの実在を信じています。宮水三葉という女の子が日本のどこかにいて自分と入れ替わっていたと信じています。糸守Bの実在も信じています。三葉の生きている土地だからです。
瀧:違う…
瀧:間違いない…
瀧:この校庭、まわりの山
瀧:この高校だって!
瀧:はっきり覚えてる!
瀧は糸守Bの光景をはっきり覚えています。
司:そんなわけねえだろ
司:三年前に何百人が死んだあの災害
司:瀧だって覚えてるだろ
瀧:死んだ…?
瀧:三年前に
瀧:死んだ?
知識でえた糸守と彗星災害と、眼前の糸守Aが結びつき、ここ糸守Aが廃墟だと信じました。糸守AとBの光景はおなじだから、糸守Bも廃墟ではないか?三葉Bも生きていないのではないか?と疑いました。
三葉Bの生存がぐらついたため、三葉Bの記憶を失いました。
奥寺:この子なの?
奥寺:絶対なにかの間違いだよ!奥寺:だってこの人、三年前に亡くなってるのよ
瀧:つい二、三週間か前に
瀧:彗星が見えるねって、こいつは俺に言ったんです
瀧:だから!
三葉Bは死んだと思ったが、実在していたと信じています。
瀧:全部、ただの夢で
瀧:景色に見覚えがあったのは、三年前のニュースを無意識に覚えていたから
瀧:そうじゃなければ、幽霊
瀧:いや、全部…俺の…妄想
瀧:あいつの名前、なんだっけ
糸守Bの実在を疑い、糸守Bの名前をなくしました。うっかり三葉Bのことを考えてしまい、糸守Bが実在しないのなら三葉Bは実在しえないから、三葉Bの名前も失くしました。
奥寺:組紐だね。きれい
奥寺:瀧くんのそれも、もしかして組紐?
瀧:え、あ
瀧:これは、確か、ずっと前に
瀧:人からもらって
瀧:なんとなく、お守りがわりにときどきつけてて
瀧:あ…だれから…?
瀧には「Xさんに組紐をもらった」という記憶があります。
瀧:俺、組紐を作る人に、前に聞いたことがあるんです
紐は、時間の流れそのものだって
ねじれたりからまったり、戻ったりつながったり
それが時間だ、って
はっ
あの場所なら…
一葉Bの実存や生存を疑う前に糸守Bの実存を疑ってしまい名前を失ったため、「糸守Bの一葉が話した」が「Zさんが話した」になりましたが、話した内容は忘れていません。自分の体験である「X町の御神体にYさんの口噛み酒を奉納した」ことを思い出しました。もし糸守Aの御神体に口噛み酒があれば、X町は災害直前の三年前の糸守だといえます。もっともここにある口噛み酒Aと彼の運んだ口噛む酒Bは別ものですが、彼はそのことを知りません。
瀧:あった…
瀧:ほんとにあった…
瀧:夢じゃ…なかった
御神体と口噛み酒が実在しました。瀧はX町=三年前の糸守だと信じました(事実ではありません)。ということはYさん=三年前の三葉であり、その実在も信じられます(事実ではありません)。瀧は三葉Bの名前を一度失いましたが、かわりに「三年前の三葉」という形で手に入れたのです。瀧は「三葉Bの口噛み酒を御神体に運んだ」という信念を持ちました。
瀧は三葉Bが作った口噛み酒BのつもりでAを飲みます。三葉Bの生存まだわかりません。あとは入れ替わりを待つだけです。
はたして入れ替わりはおきました。自分が入っているのだから、三葉Bは生きているに決まってます。三葉Bは完全復活です。あとはXさん=三葉Bだと瀧に信じ込ませるだけです。
四葉:ちょっとなに言っとんの?
四葉:昨日は急に東京に行ってまうし
四葉:なんか、おねえちゃん変やよ
三葉:え、東京?
この時点で瀧が持っている信念は
- 10月3日に東京でXさんと会った
- Xさんと三葉Bはおなじ顔をしている
であり、四葉がつきつけている事実は
- 10月3日に東京で三葉Bはなにかをした
です。東京で三葉Bとおなじ顔のXさんと会った、東京に三葉Bがいた、おなじ場所におなじ顔の人は二人いない、だからXさん=三葉Bである、あのとき自分は三葉Bと会ったのだ、という信念を手に入れました。
三葉:三年前、お前はあのとき
三葉:俺に!
三葉:会いに来たんだ!
それをセリフにするとこうなります。「Xさんに恋している」が「三葉Bに恋している」になりました。これでゴールです。アニメでは涙をこぼすのはもっとも重要な演出なのですが、おそらくわざと気づきづらくしているのでしょう。
三葉
三葉Aと三葉Bは別人ですが、どちらの世界でも幼馴染の瀧に映画を通じて恋心を抱き続けています。顔も名前も覚えています。髪に組紐を結んでいるのは瀧に再会したときにその場でラブハントするためです。どちらの三葉も2013年10月3日にその世界の瀧と会い、ラブハントしました。
どちらもアホで恥ずかしがり屋さんです。相手に聞かれないと自分の名前を告げられません。
瀧:バカにしやがって…
バカにしているのではなく、三葉自身がコミュ障なのです。
三葉A
東京に遊びに来ていたときに偶然、瀧と出会いました。三葉Bとまったくおなじやりとりなのも偶然です。
三葉:瀧くん…瀧くん…
三葉:瀧くん
瀧の顔を覚えていて、電車で見かけて声をかけました。瀧に恋しているので、顔を赤らめています。
三葉:あの、わたし…
三葉:…
三葉:覚えて…ない?
瀧:だれ?お前…
三葉:…
瀧は小さかったから忘れていたのです。
三葉:すみません…
三葉:瀧くんなのに…
三葉は自分の判断には自信がありますが、恥ずかしがり屋さんなので名乗って声をかけられません。
瀧:(変な女…)
瀧:あのさ!
三葉:えっ?
瀧:あんたの名前!
三葉:みつは!
瀧は自分の名前を呼ばれたので、知ってるやつじゃないかと思って名前を聞きました。瀧が名前を聞いたので、恥ずかしがり屋さんの三葉でも名前を告げられます。
三葉:名前は、みつは!
組紐を渡してラブハント成功です。瀧は三葉の顔と名前を覚えて、彼女に恋をします。
三葉:なあんだ、テッシーか
三葉:ううん、なんとなくさぼってまっただけ
三葉:元気やよ?
三葉:え?お祭り?
三葉:うーん、あそっか、彗星
三葉:今日が、いちばん明るく見えるんやっけ
三葉:うん、わかった。あとでね
翌日の10月4日です。前日に学校をさぼったといっています。
三葉:やっぱ…変かな?
勅使河原:やっぱ男関係なんかな…失恋とか
早耶香:男子ってすーぐ恋愛に結びつけるなー
早耶香:なんとなく切っただけやって言っとったっち…
勅使河原:そうかあ?
勅使河原:なんとなくあんなん切らんやろ…
髪を切ったのは瀧と恋人どうしになりラブハントの必要がなくなったからです。恋する女の顔です。
彗星災害で亡くなります。
三葉B
三葉:入れ替わっていたときの記憶は、目覚めるとだんだん不鮮明になってしまう
三葉は入れ替わったときの記憶を忘れてしまいます。入れ替わりで自分で経験したことは持ち出せないから、東京のことは瀧の書いたスマホ日記だのみです。瀧の顔も忘れます。
三葉:今日は帰り道に奥寺先輩とお茶
三葉:きみたちの仲は順調だよ
毎回記憶がリセットされる三葉は、奥寺が気に入っているのが三葉in瀧だとは知らないので、瀧の普段どおりのつもりで奥寺とお茶して、それを「きみたちの仲は順調だよ」と書きました。
三葉:…の、はずやったのになあ…
起床時点ではうっすら記憶が残っているので、これは嫉妬です。奥寺とのデートのこともすぐに忘れるはずだったのですが…
三葉:いーなー、今ごろふたりは一緒か…
三葉:あれ三葉:わたし…なんで…
昼になっても覚えています。瀧はデートのことを当日知りました。だから三葉のスマホにデートのことは書けません。これは三葉が自分で思い出したのです。ここでこぼすのは信念を獲得したときの涙です。
やっぱり流しすぎです。
三葉は「夢で見た」瀧の顔を思いだし、「幼なじみの恋している瀧くん」と「入れ替わってる瀧くん」が同一人物だと気づきました。
三葉:わたし、ちょっと東京行ってくる
四葉:え?今から?なんで?
三葉:うーん、デート!
四葉:おねえちゃん、東京に彼氏おったの?
三葉:わたしのデートやなくて
三葉:うーん、夜には帰るから!
瀧をラブハントするため上京します。赤字は「瀧と奥寺のデートで気づいたから彼氏をつかまえにいく」くらいの意味です。
三葉:会えっこ、ない
三葉:でも、確かなことが
三葉:ひとつだけある
三葉:わたしたちは、会えば絶対、すぐにわかる
三葉:わたしに入ってたのは、きみなんだって
三葉:きみに入ってたのは、わたしなんだって
「確かなこと」が「ひとつだけ」あります。それは入れ替わった相手が近くにいればエスパーで見つけることができるということです。いくら三葉がアホでもあてもなく東京を探すほどではありません。三葉Bはエスパーで瀧を探し当て、そこから先はAとおなじです。瀧が三つ下であることは知っています。
瀧と三葉:いないんじゃなくて作らないの!
おたがい相手を探しているので強がりではなく事実です。
最初の入れ替わりの朝です。ノーブラです。
三葉:おっぱい!!?
瀧がおっぱいを揉んでいることを四葉に教えられました。この日からブラでガードして寝ます。
ノーブラですが、実は回想です。
ノーブラですが、回想です。
三葉:…ん?
三葉:あいつに悪いか
パジャマが変わりました。ガードされても揉みます。
三葉:…の、はずやったのになあ…
ガード中です。
三葉Aとおなじく髪を切りました。パジャマはそのままですが、ガードしていません。瀧と恋人どうしになったので、思う存分揉んでもらおうと思ったのです。アホです。
三葉:それにあんたわたしの胸さわったやろ
瀧:ど、ど、どうしてそれを
三葉:四葉が見とったんやからね
瀧:あーあ、ごめん、すまん、つい
瀧:一回だけだって
三葉:一回だけ?
三葉:うーん
三葉:何回でもおなじや、アホ!
一回といわず何回でも揉んでほしいと言っています。アホっていうほうがアホなのです。
この清純可憐な美少女はこのアホとは平行世界の同一人物であり、おなじ性格なのです。だからいかに清楚に見えてもおっぱいを揉まれたがっていることは断じて事実なのです。
カタワレ時
瀧:そこにいるのか、三葉
御神体で口噛み酒を飲んだ記憶まではあるので、三葉はそこにいると思いました。
瀧:あっ、わたし、瀧くんになっとる
三葉が直前に入れ替わったのは10月1日なので、入れ替わり自体は不思議には思いません。
瀧:どうして?瀧くんがここに
口噛み酒を飲んだ瀧が三葉と入れ替わることで、口噛み酒の三葉Aの魂の半分と三葉Bの魂の半分が結びついてパーフェクト三葉が誕生しました。記憶も人格も統合されています。
瀧:町が…
瀧:わたし…あのとき…
瀧:死んだの…!?
二重湖を見て彗星の破片が落ちたことを知りました。
瀧:瀧くん…?
自分は死んだのだと思いへたりこんでいたのですが、瀧が近づいてきたのをエスパーしました。
御神体に向かう途中で三葉をエスパーしました。エスパーの射程はカルデラの直径くらいはあります。
カタワレ時になり世界AがBに接し、入れ替わりが戻りました。三葉Bの中にパーフェクト三葉が入りました。
三葉:瀧くん…
目の前の人間が恋の相手だと知ってるので顔を赤らめています。おたがい疑いなく相手を知っているので、ありきたりな感情表現の涙です。
瀧は三葉Aにもらった組紐Aを三葉Bに渡しました。世界Bで瀧と三葉が一つずつ持つようになります。
瀧:なあ、三葉
瀧:目が覚めても忘れないようにさ
瀧:名前書いとこうぜ
ただの口実です。
瀧:えっ?三葉?
瀧:おい…三葉…
瀧:言おうと思ったんだ
瀧:お前が世界のどこにいても、俺がかならずもう一度会いに行くって
ふたりが別れてから彼女が手のひらの「すきだ」を見る演出だったのです。
瀧はバカなのです。
瀧:きみの名前は、三葉
瀧:だいじょうぶ、覚えてる
瀧:三葉、三葉、三葉
瀧:名前は三葉
瀧:きみの名前は…あっ
瀧:お前は…瀧:だれだ…
瀧:俺は、どうしてここに来た
瀧:あいつに、あいつに会うために来た
瀧:助けるために来た
瀧:生きていてほしかった
御神体から戻るときに一番大切なもの、三葉の名前を取られました。「お前は誰だ」は、瀧が最初に三葉のノートに書いたことばですが、その時点に戻りました。つまりその時点の「Xさんに恋している」に戻りました。
三葉:あの人の…三葉:あの人の名前が、思い出せんの!
三葉も取られました。三葉を好きだった勅使河原は怒り心頭です。
三葉:あああ…
三葉:これじゃ、名前、わかんないよ…
三葉もアホなので演出に弱いのです。 冷静に悲しんでいるように見えなくもないですが。
瀧:俺、こんな場所で
瀧:なにやってんだ?
自分がいる場所のことは覚えています。瀧はXさんに恋をしたままの一生です。それにしても悪い手相です。
オープニング
オープニングは世界Bです。
三葉:朝、目が覚めると、なぜか泣いている
三葉:そういうことが、時々ある
瀧:見ていたはずの夢は、いつも思い出せない
瀧:ただ
三葉:ただ
三葉:なにかが消えてしまったという感覚だけが
三葉:目覚めてからも
三葉:長く
三葉:残る
これは夢についての一般論です。だれでもそういう経験があるものです。
瀧:ずっとなにかを、だれかを
瀧:探している
三葉:そういう気持ちに取りつかれたのは
三葉:たぶん、あの日から
瀧:あの日、星が降った日
瀧:それはまるで
三葉:まるで、夢の景色のように
三葉:ただひたすらに
瀧と三葉:美しい眺めだった
浴衣姿の三葉はAですがナレーションはBです。
エンディング
エンディングも世界Bです。瀧はラブハントされたときに三葉の顔も名前も覚えましたが、エスパーはできません。三葉Bは瀧の名前を忘れてしまいましたが、Xさんの顔を知っているので、瀧が名乗ってくれればXさん=瀧となり、「瀧に恋している」になります。瀧をエスパーできます。おたがい8年間探しつづけています。三葉Bは瀧Bに組紐Bを渡したが、瀧Aに組紐Aをもらいました。これで髪を結って目印にしています。
これは別人です。
早耶香:それからテッシーさ
テッシーはありふれたあだ名だから瀧にもそういう知り合いがいるでしょう。
顔が違うからスルーしたが組紐を見て反射的に振り返りました。瀧の足音が止まったから女性が訝しみました。
奥寺:あたしたち、いつか糸守まで行ったこと、あったよね?
奥寺:あれって、瀧くんがまだ高校生だったから
瀧:五年前…
瀧:そんなに…
奥寺:なんだか、いろいろ忘れちゃったな
五年もたてば忘れてあたりまえだということを主張しています。瀧には糸守のかすかな記憶がありました。
瀧:あのころのことは、俺ももう、あまりよく覚えていない
瀧:ケンカでもしたのか、司と先輩とは別々に東京に戻ったこと
「司と先輩が別々に東京に戻った」ことを知るためには、ふたりのどちらかが帰るのを見届ける必要があります。
主人公の瀧Aは二人を置いて御神体に行ったから、独白主は主人公の瀧ではないのです。
瀧:どこかの山で、ひとりで山で夜を明かしたこと
瀧:記憶はその程度だ
瀧:ただ、あの彗星をめぐって起きた出来事に
瀧:一時期、俺は妙に心を惹かれていた
瀧:彗星のカタワレがひとつの町を破壊した大災害
瀧:しかし町の住民のほとんどが、奇跡的に無事だった
瀧:その日、偶然にも町を挙げての避難訓練があり
瀧:ほとんどの町民が、被害範囲の外に出ていたのだ
瀧:あまりの偶然と幸運に、さまざな噂がささやかれた
瀧:そういう記事を、ずいぶん熱心に、あのころ、俺は読んでいた
瀧:いったい、なにがそれほど気になっていたのか、自分でも、もう理由はよくわからない
瀧:あの町に、知り合いがいたわけでもないのに
これは中学生の瀧です。制服が高校のものではありません。扇風機も違います。
三葉が中学生の瀧に会いに行ったときのズボンには格子模様があります。ネクタイには柄がありません。
高校生の瀧の制服のズボンには模様はありません。ネクタイには柄があります。
扇風機もシャレオツになっています。
彗星災害の起きた2013年に中学生だった瀧が糸守の話を熱心に読んでいます。瀧は幼いころ糸守に住んでいたのでかすかな記憶がありますが、知り合いのことは覚えていませ。特殊体質のため、彗星事故でみんな死んだことを知って記憶をなくしたようです。独白主は三葉が助かった世界Bにいます。つまりエンディングの瀧は主人公の瀧Aではなく、劇中で三葉が東京まで会いに来た瀧Bなのです。
瀧:今はもうない町の風景に
瀧:なぜこれほど、心を締めつけられるのだろう
瀧Bのかすかな糸守の記憶のためです。三葉と糸守の関係は知りません。
瀧:ずっとだれかを
三葉:だれかを
瀧と三葉:探していた!
三葉はエスパーで、瀧は顔で気づきました。ずっとだれかを探していたのはずっと前から自覚しているのです。
アホの瀧がやみくもに走り回って、それを三葉が追いかけているのです。 迷子探しなのです。
三葉は瀧を認識しているのですが、恥ずかしがり屋さんなので名前を知らない人に声をかけられないのです。瀧は三葉だとわかっているのです。
瀧:あの!
瀧:俺
瀧:きみをどこかで!
滝は演出が好きなのです。バカなのです。
三葉:はっ
三葉:わたしも!三葉:うふっ
相手から声をかけてもらえると三葉も話せるのです。
瀧と三葉:きみの、名前は?
三葉はエスパーで相手がXさんだと直観してます。知らないのは瀧の名前です。名乗ってもらえればXさん=瀧だとわかります。瀧は顔も名前も知っているので、相手が三葉だとわかっています。ここで聞いているのはどちらも「たき」「みつは」という、相手の名前の発音です。ってゆっかね、恥ずかしがり屋さんの三葉はともかく瀧は相手の名前を聞く前に名乗るのが常識でしょうが。
そんなんだから12月になっても内定が取れないのです。ここで三葉はまだ名前を知らないので、二人ともありきたりな涙です。泣きすぎなのです。
ストーリーまとめ
瀧と三葉は世界Aでも世界Bでも小さな恋人たちでしたが、どちらの瀧も東京に出てきて三葉を忘れてしまいました。どちらの三葉も瀧に恋心を抱き続けています。
三葉:みつは!
三葉Aは偶然、三葉Bはエスパーで探し当て、中学生の瀧と再会しました。どちらの三葉も組紐の力で瀧を自分に恋させました。どちらの瀧もずっと三葉の顔と名前を覚えています。
翌日、三葉Aは彗星災害で亡くなりました。瀧Aはそのショックで災害や三葉の存在ごと忘れてしまいました。世界Bでは瀧Aと三葉Bの尽力で、災害でだれも亡くなりません。
三葉:瀧くん…瀧くん…
三葉:覚えて…ない?
瀧Aと三葉Bの最初の入れ替わりです。瀧は三葉の名前を忘れたまま、三葉の身体が生存したことを信じたので、かわりに「Xさんに会った」という信念を持ち、「Xさんに恋している」という感覚も復活しました。
三葉:いーなー、今ごろふたりは一緒か…
三葉:あれ三葉:わたし…なんで…
三葉は入れ替わっているときの記憶を思い出し、入れ替わり相手の瀧の顔も思い出したので、「恋する幼なじみの瀧くん」と「入れ替わり相手の瀧くん」が同一人物だと信じ、「入れ替わり相手の瀧くんに恋している」という感覚を手に入れました。
三葉:三年前、お前はあのとき
瀧:俺に!
瀧:会いに来たんだ!
四葉のことばから、瀧と会ったのは三葉Bだと信じました。本当は三葉Aなので事実ではありません。そこから「三葉Bに恋している」という感覚も抱きました。
三葉:瀧くん…
おたがい相手に恋していると思っています。このあと土地神の力でおたがいの名前を忘れてしまいます。
三葉:わたしも!
三葉:うふっ
瀧Bと三葉Bの感動の再会です。三葉は瀧の顔はわかるが名前がわかりません。なので瀧に名前を聞きます。瀧は三葉の顔と名前がわかります。瀧が聞くのは不躾だからです。
♡
瀧と三葉に共通するのは
- 恋している人と入れ替わりの相手がおなじ顔だと知っている
です。三葉のみ
- 起きたら瀧が書いたスマホ日記以外はすべて忘れる
です。瀧が必死でスケッチをして三葉を探しに行くのは不思議でもなんでもありません。確信できないだけで、事実上、恋している人=三葉だとわかっています。
三葉:…の、はずやったのになあ…
起き抜けの三葉は恋する瀧くんとおなじ顔の瀧くんが奥寺とデートすることをかろうじて覚えているから、これはとても貴重な嫉妬の顔です。なんにせよ、瀧が三葉に恋しているのはラブハントのせいであり、ふれあいから恋が芽生えるようなロマンチックな話ではないので、三葉の表情を楽しむのがよいでしょう。
♡
この映画には過去改変も前前前世も出てきません。平行世界の人間との入れ替わりです。オカルトパワーはあります。瀧も三葉も特殊な体質や能力を持っており、ふたりともアホです。幼い恋人たちが離ればなれになったり再会したりを繰り返し、ラジオドラマ『君の名は』をなぞっています。この映画の大きな目的の一つがそれだったようです。
これは口噛み酒を飲んで見たイメージですが、『君の名は』の焼夷弾をイメージしています。
口噛み酒に結びつけた三葉の魂の半分を、別の世界の三葉の魂の半分と結びつけました。それが入れ替わりの目的のようです。いわば別の世界の自分を孕ますのです。
美少女巫女が口から出した精〇を飲むのです。童貞天才は考えることが違うのです。受精したのは瀧の中でだから、断じてこれは体外受精であり、断じて瀧はただの試験管なのです。受精が終われば世界Aは用済みになり、瀧Aは一生だれだかわからない人への恋に苦しむのです。
エンディングではちょうど四葉がお年頃なのです。
入れ替わりについて
おなじ日付で入れ替わるように見えますが、違います。
美しい奥寺と瀧のデートは世界Aの10月3日で、その前日の2日に入れ替わりました。
三葉:いーなー、今ごろふたりは一緒か…
三葉:あれ三葉:わたし…なんで…
デートは10時30分からなので、これはそれ以降ですが
三葉:わたし、ちょっと東京行ってくる
四葉:え?今から?なんで?
三葉:うーん、デート!
四葉:おねえちゃん、東京に彼氏おったの?
三葉:わたしのデートやなくて
三葉:うーん、夜には帰るから!
上京したのは朝なので、その翌日です。
それは世界Bの10月3日です。デートはその前日、世界Bから見れば10月2日です。日付が一日ズレています。
観客だまし
この映画には観客を間違った方向に誘導するだましが大量にあります。なぜならこの映画は一種のパズルであり、新海監督の観客への挑戦だからです。
勅使河原:わかった。それって
勅使河原:前世の記憶、もしくはエヴェレット解釈に基づくマルチバース無意識が接続したっちゅう
マルチバースはヒントですが前世も来世も全全全然関係ありません。
左は瀧の中学時代の自宅なのです。ヒントなのです。
四は:なんで制服着とんのん?
入れ替わりの前後で日と曜日がずれているのです。
四葉:もうカタワレ時やなー
三葉:はっ
三葉:はぁー
四葉:そうや、彗星見えるかな
三葉:えっ…彗星…
一葉:おや、三葉
一葉:あんた今、夢を見とるな?
瀧:涙…なんで
ババアのセリフにも瀧の涙にもなんの意味もありません。
奥寺:瀧くんて…違ってたらゴメンね
奥寺:きみは昔、わたしのことがちょっとスキだったでしょう
奥寺:そして今は、別の好きな子がいるでしょう
瀧:えっ?
瀧:えええーっ?
瀧:いませんよ…
奥寺:ホントぉ?
瀧:ぜ、ぜんぜん違います
奥寺:ホントかなぁ…
奥寺:ま、いいや
瀧はXさんに恋していて、奥寺は憧れのお姉さんです。それはずっと変わりません。
瀧:なに言ってんだ、こいつ…
これはティアマト彗星のことですが、三葉Bが世界Bの10月1日に書きました。瀧が口噛み酒を奉納した日です。翌日は瀧のいる世界Aでは10月3日で、デート当日です。最接近日でなくても見えるとテレビで言っていました。
瀧は三葉に電話をかけます。
携帯:おかけになった電話は、電波の届かない場所にいらっしゃるか、電源が入っ(断)
瀧:さんざんだったデートの結果は
瀧:つぎに入れ替わったときに伝えればいい
瀧:そう思った
瀧:でも、なぜか、もう二度と
瀧:俺と三葉との入れ替わりは、起きなかった
別世界だから電話はつながりません。あたりまえなのです。そもそもこれは世界Aの10月3日のできごとで、世界Bの10月2日にあたります。三葉Aの死とは全全全然なんの関係もないのです。
奥寺:この子なの?
奥寺:絶対なにかの間違いだよ!奥寺:だってこの人、三年前に亡くなってるのよ
瀧:つい二、三週間か前に
瀧:彗星が見えるねって、こいつは俺に言ったんです
瀧:だから!
(一葉:あんた今)
瀧:俺は…
(一葉:夢を見とるな)
瀧:俺は…
瀧:なにを
ババアに惑わされただけです。なんの意味もありません。
三葉:瀧くん…
三葉:瀧くん…
三葉:瀧くん…
三葉:覚えて…ない?
夢を見ただけです。思わせぶりなだけでなんの意味もありません。
三葉:いーなー
三葉:今ごろふたりは一緒かー
三葉:はっ
三葉:わたし…
三葉:ちょっと、東京行ってくる
四葉:え、ちょっとおねえちゃん
口噛み酒を飲んで見たイメージです。この連なりは一日のできごとにしか見えないが、一二枚目が10月2日、三枚目は10月3日です。日付を錯覚させるためだけに存在します。
一葉:おや?
一葉:あんた、三葉やないな?
三葉:はっ
三葉:おばあちゃん
三葉:知ってたの?
一葉:いやあ…
一葉:でもここんとこのお前を見とったら、思い出したわ
一葉:わしも少女のころ、不思議な夢を見とった覚えがある
三葉:えっ?
一葉:夢でだれになっとったんか、今ではもう記憶は消えてまったが
三葉:消える…
ババアが夢だと言っているのだから夢の話なのです。
三葉:はっ、もしかしたら!
三葉:宮水の人たちのその夢って
三葉:全部、今日のためにあったのかもしれない
完全なデタラメを「~かもしれない」で終わらせてウソでなくしています。