映画『HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』解説その1
映画「HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターメモリーズ」の主人公の野乃はな(キュアエール)は、前の学校でいじめられていた。
お城と一緒にエールたちが高くまで持ち上げられてしまった。
ブラック:なにこれー!ありえなーい!
アンジュ:まさかこれ、すべて奪った記憶なの!?
マシェリ:あんなにたくさん記憶を奪われたってことは、すんごくたくさんの人が赤ちゃんにされてるのです
マシェリ:大人がいなくなったら、世界は滅びてしまうのです
ブラック:そしたらチョコパフェも食べられないじゃん!
ホワイト:そこなんだ…
みんな:きゃあーっ!
お城は美しいところだったが、ミデンが攻撃してきた。
ミデン:すべての記憶はワタシのもの…
ミデン:手放してなるものか!
エトワール:やばい。はやくミデンを倒して、みんなの記憶を取り返さなきゃ!
ブラック:行こう!
みんな:うん!
エール:あっ
アンジュ:エール?
なにを思ったか、ミデンに壊されたデジカメをエールが拾った。
エトワールは損な役回りで、倒して記憶を取り戻すなどと脳筋なことを言う。
ミデンはあきらめて去っていった。エール、アンジュ、エトワールとマシェリ、アムール、ブラックとホワイトがはぐれてしまった。
アンジュ:マシェリたち、どこに行ったんだろう
エール:はぐれちゃったね…
エトワール:ってかミデンのやつ、いったいなに考えてるんだろう
エトワール:わたしてっきり、プリキュアの力を奪って強くなって、なにか悪いことしようとしてるのかなって
エトワール:でも、いきなりこんなお城に引きこもっちゃうし
アンジュ:たしかに、なんのために記憶を奪っているのかな
エトワール:ところでさ、なんだろう、ここ
エール:かわいい場所だよね…
エール:あのね、実はちょっと気になってることがあって
エール:さっき、ミデンがこれを壊したとき
(エール:もともと持ってない思い出なんて)
(エール:ぜったいあなたのものにはならないんだから!)
(ミデン:…ボクは…ボクだって…)
エール:うまく言えないけど、なんだか、ちょっと悲しそうに見えた
アンジュ:そういえば、ミデンに記憶を奪われていたあいだね
アンジュ:わたしたちの記憶は、ミデンの中にあったの
エール:ミデンの中?
アンジュ:ほかのたくさんのプリキュアたちと、思い出が混じり合ったような感覚で
アンジュ:表はこの場所みたいにきらびやかなのに、ミデンの中は真っ暗だった
エール:真っ暗…
エールはこわれたデジカメを見て、みんながちっちゃくなって自分のことを忘れたことを思い出した。
「たしかに、なんのために記憶を奪っているのかな」これはけっこう考えないとわからず、しかもかなり予想外なこと。「ほかのたくさんのプリキュアたちと、思い出が混じり合ったような感覚で」は最後にとても大きな意味を持つ。エトワールもただの脳筋じゃなかった。
はぐたんが穴に落ちたのでハリーが追いかけ、三人はまわり道を探す。
マシェリたちはモフルンに追いかけられていた。
マシェリ:この子はモフルン。キュアミラクルのお友だちなのです!
アムール:このお城はミデンが奪った記憶からできています。ゆえに、キュアミラクルの強い記憶が反映された空間、以上、証明終了です
ホワイト:講釈ありがとう
HUGキュアはどうもことばが勝つ傾向がある。
はぐたんとハリーが落ちた穴の先は
はぐたん:はぎゅ~
ハリー:われながらナイスクッションや…
さっきの保育室だった。
ハリー:こ、これは…
ハリー:こいつら全員プリキュアや!
ちっちゃいプリキュア:あ、あれは!
ちっちゃいプリキュア:新しいお友だち!
ちっちゃいプリキュア:ネズミさんもいる!
ちっちゃいプリキュア:プリキュアごっこしよー
ちっちゃいプリキュア:プリキュアごっこー
ハリー:あああ、はぐたん…あぎゃ!
この子たちは全員幼児でプリキュアの記憶はないから、だれかが「プリキュアごっこ」を教えたはず。
一方エールたちは
エール:はぐたーん!?
アンジュ:ねえ、なんかここ、いままでとなんか雰囲気違わない?
アンジュ:淋しいっていうか、なんだか夜のお墓にいるみたいな
エトワール:やだ、アンジュ!
エール:ヘンなこと言わないでよ!
??:きゃああーっ!
エトワール:なにやってんのあんたたちー!
ブラック:ご、ごめんなさい…
エール:あいたたたたた…ん?
ミデンが一人二役ではしゃいでいた部屋にたどり着いた。
「夜のお墓」 は文字通り。ステンドグラスにされたプリキュアは実際は死んでいるということを暗示している。
ブラック:それて、カメラ?
ホワイト:ずいぶん古いもののようだけど…
アンジュ:こ、これは!
アンジュ:幻のミデンF、マーク2!
みんな:ええっ?
エール:ミ、ミデンって…
アンジュ:このカメラの名前!
アンジュ:最近発表されたミデルタD9の元祖ともいえるフィルムカメラなの!
アンジュ:発表後すぐにメーカーが倒産してしまい、市場に出回ったのはごくわずかで!
アンジュ: ’$”(”)!
ブラック:くわしいねえ…
エトワール:あの子ちょっといろいろくわしめなんで
エール:ミデンF…ミデン
エール:あのテルテル坊主とおなじ名前ってことは
アンジュはカメラのことはよく知っているが、ミデンのことはなにも知らないし、エールのようにミデンとカメラを結びつけることができたのに、「幻のミデンF、マーク2!」のほうが大事だった。まあ、エトワールとおなじく損な役回り。
ミデン:見たな…
エール:ミデン!
ホワイト:いったい、このカメラはなんなの?
ブラック:このさびしい部屋はなに?
ミデン:くっ…黙れ黙れーっ!
みんな:きゃーっ
ミデン:ボクは…
ミデン:ボクは好きでこんなところにいたわけじゃない!
ミデン:暗い箱に閉じ込められたまま、何十年!
ミデン:だれにも使われずたったひとりでただただ朽ち果ててゆく
ミデン:そんな孤独がお前たちにわかるか!
アンジュ:なにもない…
エトワール:つまり、ミデンは使われなかったカメラのおばけ…
アンジュ:だからわたしたちの記憶を奪っていたのね
アンジュ:本来このレンズに写すはずだった、楽しい思い出を
ミデン:空っぽのまま一生を終えたボクの絶望
ミデン:お前たちにわかるまい!
普通の人にとってはうれしい、見てくれることや話かけてくれることは、ミデンには苦痛でしかない。
アンジュがいらんこと言って観客を間違った方向に誘導しているが、ミデンが記憶を奪う理由は違う。
エール:空っぽ…
(エール:キラキラ大切な思い出が、みんなが、わたしを支えてくれてる!)
(エール:だから、なにがあっても踏ん張れる!踏ん張ってみせる!)
エール:思い出が、なにもないってこと?
(エール:もともともってない思い出なんて)
(エール:ぜったいあなたのものにはならないんだから!)
エール:だから、あのとき…
エール:うっ
自分のものにならないなら壊してしまえ、ということ。だがこれはエールの誤解で、本当はミデンはカメラの中の世界には戻るつもりがなかったから。
ミデン:ワタシはこれからだれよりもしあわせになる!
ミデン:世界中のキラキラの記憶すべてを、ワタシのものにしてやる!
アムール:自分勝手な理由で、他者の大切なものを奪うことは許されません!
マシェリ:だいたいひとのもの横取りしても、しあわせになんてなれないのです。
アンジュ:あなたのやっていることは、不幸になる人を増やすだけ!
ホワイト:ミデン、お願い、みんなの記憶を返して!
ミデン:うるさい…うるさいうるさーい!
エトワール:返すつもりはなさそうだね!
ミデン:ウアアアーーッ!
ミデンはこじらせて引きこもっているので、プリキュアの説教や無理矢理はますますこじらせる。
エール:思い出がないって
エール:楽しいこと、うれしいこと
エール:ひとつもないってこと?
エール:生まれてから今まで
エール:さびしいとか
エール:苦しいとか
エール:そんな気持ちでいっぱいだったってこと?
エール:あんなつらい気持ちだけが、ずうっとつづいているってこと?
エール:ううん、あのときだって、わたしにはハリーもはぐたんもなぎささんもいた
エール:うちに帰れば、パパもママも、ことりもいる
エール:学校行けば、友だちもたくさん
エール:なにもないって、どんな気持ち…?
ブラック:今よ、ホワイト!
エール:待って!
ブラックとホワイト:えっ!?
ミデン:ここで決めなきゃ!
ミデン:女がすたる!
エール:ブラック!ホワイト!
アンジュ:どうしたの、エール!
エール:わたし…
ミデンがすかさずギャグを入れてしまったが、いじめられっ子だったエールだけがミデンの気持ちに気がついた。ミデンはなぜこじらせたのか?それはエールに原因があるのです。
エールをぐるっとまわるカメラワークは、ミデンと話をする場面でも使われる。こちらは反時計回り。
ブラックとホワイトの記憶を奪ったミデンはめちゃくちゃ強い。エールが吹き飛ばされて壁面のステンドグラスを壊す。模様にハートがたくさんあり、示唆的。
ハリー:ん、なんや?
はぐたん:あっちー!
ハリー:えらいこっちゃ!あのふたりを助けたらんと!
ハリー:通れへん…
ハリー:こ、こんどは抜けへん…
ハリー:あいたたたた
ちっちゃいプリキュア:あ、あれ?あたしも手伝う
ちっちゃいプリキュア:せーの
ハリー:痛たたたたたた
ミデン:プリキュア・マーブル・スクリュー!
ミデン:そんな目でボクを見るなあああーーっ!
エール:ああっ
ちっちゃいプリキュア:きゃーっ
プリキュアが全滅してしまった。
「そんな目でボクを見るなあああーーっ!」にミデンのとても屈折した感情が見えるがちゃんと理由がある。
エール:ん…
エール:そっか…
エール:ここが、ミデンの心の中…
エール:ほんとになにもない…
エール:なにもないから、ふんばれなかったんだ…
エール:ひとりで、落ちていくしかなかったんだね…
ミデンの中はなにもないが、壁の模様はオープニングの背景の模様と似ている。
ミデン:くっ…ふふふふ…
ミデン:ハーッハッハッ
ミデン:やった…やったぞ!!
ミデン:これですべての記憶はワタシのもの!
ミデン:世界中のしあわせがワタシのものだ!
ミデン:なんでもできる!
ミデン:なんでもなれる!
ミデン:しあわせ満開!
ミデン:ぶっちゃけありえなーーーい!
ミデン:ハーッハッハッハッハッハッハッ!!
エールと違い、ミデンは(一見)たいへんテンションが高い。
はぐたん:やったあ
ちっちゃいプリキュア:やったー!
ハリー:やったちゃうわ!
ハリー:どないしょー、エールたちまでやられてしもうたー!
はぐたん:ない…
はぐたん:えーゆない…
はぐたん:ないない
はぐたん:みんなない!
ハリー:あかんでこれは…
ハリー:プリキュア、全滅や!
はぐたん:はぎゅ…
はぐたん:ぷいきゅあ!ぷいきゅあいゆー!
ハリー:せや、こいつらももとに戻したったらええねん!
ハリー:って無理やー!
ハリー:未来からきたおれたちには
ハリー:こいつらを戻してやれるほどの思い出があらへん!
はぐたん:はぎゅ…
ミデン:ハーッハッハッハッ
はぐたん:えーゆ
はぐたん:ふれ、ふれ、えーゆ…
ハリー:はぐたん…
はぐたん:ふれ、ふれ、あんじゅ
はぐたん:ふれ、ふれ、えとわーゆ
はぐたん:ふれ、ふれ、ましぇり
はぐたん:ふれ、ふれ、あむーゆ
はぐたん:?はぎゅ?
ハリー:どうした?はぐたん
はぐたん:はーぎゅ!
はぐたん:あゆ!ふれふれ、あゆよ!
ハリー:そうか!その手があったか!
ハリー:さすがはぐたんや!
ハリー:おーい、プリキュアの映画を見にきてくれたみんなー!
ハリー:そう、ミラクルライトを持っとるきみらや!
ハリー:みんなはどのプリキュアが好きや?
ハリー:キュアラブリーか?キュアラブリーか?
ハリー:ほかにもたーくさんおるでえ!
ハリー:キュアホイップや、キュアミラクル
ハリー:キュアフローラや、キュアラブリーや
ハリー:プリキュアはたっくさん、たっくさんおる!
ハリー:ひとりじゃなくてええ、今まで好きやったプリキュアの名前、ぜんぶ呼んだってくれ!
これは明らかに「昔プリキュアを見ていた人」への呼びかけなのです。現在進行形で見ているちい友にはプリキュアの思い出なんてないであります。
ハリー:未来からきたおれたちには
ハリー:こいつらを戻してやれるほどの思い出があらへん!
これがヒントになっているであります。
ハリー:テレビの前でいっしょうけんめい応援してくれたときのこと
ハリー:プリキュアのかわいかったとこ、かっこよかったとこ
ハリー:なんでもええから、たっくさん思い出したったくれ!
ハリー:きみらが応援してくれた思い出が、この子らをもとに戻してくれる!
ハリー:みんなが大好きやったプリキュアを、蘇らせるんや!
ハリー:さあ、ミラクルライトを振って、プリキュアを応援したってくれ!
その「昔プリキュアを見ていた人」がミデンに幼児にされて、劇中の映画館でミラクルライトをもらっているであります。
ハリー:いくでー!せーの!
はぐたん:ふれ、ふれ、ぷいきゅあー!
ハリー:その調子や!
ハリー:もっと大きい声で!
はぐたんとハリー:ふれー、ふれー、ぷいきゅあー!
はぐたんとハリー:ふれー、ふれー、ぷいきゅあー!
名前を呼ぶこと、思い出すことが死者を蘇らせるということは、多くの文学作品に共通するテーマ。
はぐたんとハリーの尽力とちい友の協力でプリキュアが復活した。
はぐたんとハリー:やったあーハリー:みんなー、もとに戻ったでー
はぐたん:ふれふれ、あいがとー!
HUGキュアの面子も復活したが、エールだけいない。
アンジュ:うふふっ
アンジュ:あっ、あれ?
みんな:えーっ!?
エトワール:なんでエールだけいないの?
アムール:ほかのプリキュアのところに、まざったのでしょうか
マシェリ:ぬーん
マシェリ:ああーっ!
マシェリ:まさか、この下に落ちちゃったとか…
マシェリ:おーおーおー…
アンジュ:ああっ
アンジュ:あっ、もしかして!?
ミデン:ウギャーッ
ミデン:あうう…胸が苦しい…
ミデン:こ、これは…
エール:ぐぐぐ…
エール:まだ…出てくもんか!
ミデン:お前…ワタシの中でなにをしているー!エール:いまわたしが出てったら、あなたがまたひとりになっちゃう!
アンジュ:そういうこと…
アンジュ:エールらしい!
エトワール:なんか、わたしがはなと、友だちになったときのことを、思い出すね
エールはミデンの中にとどまっていた。ミデンがエールに恋して苦しんでいることのことば遊び的表現になっている。アンジュがまたまぎらわしいことを言う。エールもかなり暴力的だが、外側からではなく内側から。
お城の一部がはなを映す場面はまだある。
ミデン:やめろ!ワタシの中で暴れるな!ミデン:お前と話すことなどない!
ミデン:出て行けーーーっ!!
エール:いや!わたしは話したいの!
エール:ちゃんと話してくれるまで、出て行かないから!
ミデン:お前たちは、記憶さえよこせばいいのだ
ミデン:ワタシの中を、勝手にかき乱すなぁーっ!
ミデンは「お前と話すことなどない!」と言うが、エールが侵入してきても、本当に話すことがなにもなかった。
復活したプリキュア数十人が分身とはいえミデンひとりに総掛かり。
ラブリー:わたし、世界中のみんなをしあわせにしたい
ラブリー:ミデン、もちろんあなたにも!ラブリー:ハピネス注入
みんな:しあわせチャージ!
ミデン:もっと…もっとたくさんのまぶしい記憶を!
ミデン:心を満たせばお前など!
エール:やめなよミデン!
エール:どんなに記憶を奪っても、あなたは満たされないよ!
ミデン:うるさい…
ミデン:うるさいうるさーーーーい!!
ミデンはエールに片思いして苦しかったので、まぶしい記憶をたくさん集めれば、エールを心の中から追い出せると考えていた。片思いしたきっかけは先のほうで明かされる。
ルミナス:ああっ、見てください
ブラック:ひびがはいってる!?
ブラック:なんで?
ホワイト:ミデンの分身を倒したから、そのぶんミデンも弱ったのかも
ブラック:ああっ、ってことは!
ブラック:がんばれエール、最後の一押しはあなたにかかってるよ!
エールががんばっているからひびが入ったのであって、オールスターズの戦いは関係ない。ホワイトのミスリード。
ミデンの心の中にもひびが入った。
エール:あうっ
エール:あっ…ああ
ミデン:はっ
ミデン:やめろ!
エール:ごめん!でも!
ミデン:見るなあああああーーーーーっ!!
ミデンはなぜそんなに見られるのを嫌がるのか?
エール:あなたが、本当のミデン?
エール:ん…雨…エール:冷たくて、悲しい雨
エール:なんだか、あなたの涙みたい
ミデン:ずっとこうなんだ…
エール:ずっと…?
ミデン:ぼくは、これしか知らない…
エール:…そっか…
エール:ミデンは偉いね
エール:ずっとこんなじゃ、冷たくて、凍えて動けなくなってもしかたないのにエール:自分でなにかを変えようとした、でしょ
ミデン:でも、なにも変わらなかったミデン:きみも言ったじゃないか、けっきょくぼくは満たされないって
エール:それは違うよエール:だれかから奪った思い出じゃ満たされない、そう言ったんだよ
ミデン:おなじだよ…
エール:違うよ。ぜんぜん違うエール:ひとから奪うんじゃない、ミデン自身が、自分で経験した記憶を積み上げていこう
エール:それが、本当の思い出になるから。
ミデン:ぼくの、本当の思い出…?
エール:そう、わたしたちと一緒に
エール:おいしいもの食べたり
エール:買い物行ったり
エール:はぐたんのお世話したり
エール:ピクニック行ったり
エール:泣いたり
エール:笑ったり
エール:怒ったり
エール:驚いたりエール:キラッキラのまぶしい思い出、今からたっくさん作ろ
ミデン:今から…
エール:うん!
ミデン:ぼくはもう、憎しみのかたまりなのに…
エール:だいじょうぶ、未来は今から変えられるもんエール:なんでもできる、なんでもなれる
エール:フレ、フレ、ミデン
ミデンとエール:きゃっ
水面に映っているのははなの家族や友だち。それはミデンの心の中にあるもので、なぜそんなものが映るのかというと、冒頭部のようにミデンがはなの家をのぞいていたから。ミデンが見られたくなかったのはこれのこと。
ミデンははなの家で使われずにいたカメラだった。幼かったはながミデンを見つけ、ピクニックに持って行こうとしてテルテル坊主を作ったが、雨が降って中止になり、はなはそのまま忘れてしまった。はなは自分のハンカチとアクセでテルテル坊主を作ったので、かわいい柄や首のパーツがそのままミデンのものになった。この頃はすでにデジカメ全盛期だった。
ミデンは自分を使ってくれようとしたはなを好きになったが忘れられてしまった。はなの家をのぞいていたりしたが、恋心で苦しいため、はな以外のまぶしい記憶が欲しかった。
「ぼくはもう、憎しみのかたまりなのに…」は、自分を忘れてしまったはなへの憎しみでおばけになってしまったということ。だれにも使われなかったことで(だれかを)憎んでいたのではない。エールは「だいじょうぶ、未来は今から変えられるもん」と言うが、おばけに未来はない。
エールは最後までテルテル坊主のことを思い出さなかったが、どうも人は身体の接触とことばの接触が同時に起きたときに恋をするようで、ミデンもエールに抱きしめられて、フレ、フレ、ミデンと言ってもらったから憎しみを忘れ有頂天になって成仏したもよう。エールかわいいからしょうがないね。HUGキュアにはバストがあり、母性の象徴だけでなく、男の子にとって魅力的な胸でもある。
こちらでエールをぐるっと回るカメラワークは時計回り。
エール:ああっ…
アンジュ:エール!
みんな:えへへ
エール:みんな!ブラック:あーあ、無理しちゃって
ブラック:ホント、ありえない
エール:ブラック
エトワール:でも、いい感じに話せたんでしょ?エール:うん
エール:奪われた記憶を取り戻すため
エール:そして、ミデンが前に進むために
エール:みんな、力を貸して!
エール:ああっ
ブラック:ミラクルライト…エールとブラック:うん
みんな:うん!
みんな:プリキュア・レリーズ・シャイニングメモリー!
ぜんぜんいい感じに話せてないので、エールは脳筋にウソをついた。「レリーズ・シャイニングメモリー」は「輝く記憶を解放する」という意味だが、これはそのウソ、「つらい記憶を持ち続ける」という意味でもある。
ラブリー:びっくりしちゃうことの連続だったけど
エール:だからミデン、今日はあなたと出会ったこともエール:いろいろあった、つらいことも
エール:きっと、また思い出になる
エール:未来でわたしたちに勇気をくれる
エール:そう教えてくれたのは、ミデン、あなただよ
エール:ミデンがみんなの思い出をつないでくれたからエール:そう信じられる
エール:ありがとう、ミデン
ミデン:ありがとう
エール:あっ
エール:約束するよ、ミデン
エール:これとおなじくらい
エール:ううん
エール:もっともっとたくさんの思い出を
エール:一緒に作ろうね!
エールのウソの力により、「つらい記憶を持ち続ける」ことは「輝く記憶を解放する」こととおなじになった。だから
エール:いろいろあった、つらいことも
エール:きっと、また思い出になる
これは「輝く記憶を解放する」ことであり、それは
ハリー:みんなが大好きやったプリキュアを、蘇らせるんや!
死者を蘇らせることである。観客が自分のつらい記憶を忘れなければ、放送の終わってしまったプリキュアもまた生き続ける。
エールは眉の形が変だからわかりにくいが、微笑んでいるようでずっとつらい思いをしている。涙をぬぐう瞬間は笑みも消えている。もちろんミデンを救えず消滅させたからだが、ミデンはエールに感謝しているが、別れがつらくて泣いている。これだから男は…。
エール:ミデンがみんなの思い出をつないでくれたから
エール:そう信じられる
これは
アンジュ:そういえば、ミデンに記憶を奪われていたあいだね
アンジュ:わたしたちの記憶は、ミデンの中にあったの
エール:ミデンの中?
アンジュ:ほかのたくさんのプリキュアたちと、思い出が混じり合ったような感覚で
このことをいっている。エールもミデンの中にいたので、アンジュや他のプリキュアと思い出が混じり合った。そこでエールはみんなが自分のことを大切に思っていてくれていることを知り
エール:だからミデン、今日はあなたと出会ったことも
エール:いろいろあった、つらいことも
エール:きっと、また思い出になる
エール:未来でわたしたちに勇気をくれる
こう信じられるようになった。逆にいうと、エールはそれ以外の方法、ことばでは友だちを信じることができない。いじめの傷がそれだけ深い。
さあや:はい、はな
はな:ありがとう
はな:うわあ、ピッカピカ!
さあや:フィルムも入れておいたから
えみる:もう、はな先輩。はやく行かないと、みなさん待ちくたびれてしまうのです
はな:そうだね
はな:さあ、行くよ、ミデン
なぎさ:パフェパフェ~はな:みんな!はい、チーズ!
ほのか:そうなんですよー
はな:ふふっ
なぎさ:どう?思い出たくさん撮れた?
はな:まだまだ!
はな:これからもっともっともーっと、パンクするくらい、たくさん撮りまくっちゃうもんねー!
はな:うふふっ、きみの未来は、明るいぞー!!
(終わり)
はなにとってピクニックはなにか特別なもののようだ。
さあやとはなの手元がアップになっているが、これはミデンが友だちをつないでいるということ。はなに手渡したあと、みんなの中心にずっとはなとミデンがいる。最後はミデンの名前と、集合写真。
ことばと違い思い出は裏切らず、写真は思い出を固定するしかけだった。はなが写真を撮りまくるのにはこういうわけがあった。思い出はことばにはよらないから、生きている人どうしだけでなく、生きている人と死んだ人もつなぐことができる。
この映画は思い出を残すにはフィルムカメラのほうがいいと主張しているようだ。デジカメは壊れたままだし。
♡ ♡ ♡
エールはミデンの中に直接取り込まれたのです。
エール:そっか…
エール:ここが、ミデンの心の中…
エール:ほんとになにもない…
エール:なにもないから、ふんばれなかったんだ…
このなんにもないところは
アンジュ:そういえば、ミデンに記憶を奪われていたあいだね
アンジュ:わたしたちの記憶は、ミデンの中にあったの
エール:ミデンの中?
アンジュ:ほかのたくさんのプリキュアたちと、思い出が混じり合ったような感覚で
アンジュ:表はこの場所みたいにきらびやかなのに、ミデンの中は真っ暗だった
エール:真っ暗…
アンジュの言う、真っ暗な場所のことなのです。エールもステンドグラスにされ、他のプリキュアと思い出が混じり合ったのです。エールは死ぬことによりはじめて本当のミデンに会うことができたのです。ちっちゃいエールがいないのは、ミデンはエールだけは自分のものにして、もとに戻すつもりがなかったからなのです。
ミデン:つまんないつまんないつまんなーーーい!!
ミデン:なんで、ボクの世界はこんなにもキラキラしたのにーーーっ!
ミデン:そっか
ミデン:キラっとひらめいた!
ミデンはエールがいないからつまんないのだとひらめいたのです。「ワタシ」ではなく「ボク」なのと、顔が赤いのはそのことを示唆しているのです。
ミデンの大きな手は、敵をつかむこと以外は、エールを遠ざけることしかできなかったのです。
♡
この映画を通じて、守ることはかばうことだったから、ミデンはエールにかばわれているといえるのです。カメラアングルがエールをぐるっと回るが、これは見ている人がエールをかばっているということなのです。冒頭のテレビレポーターはエールを見ている人がいることに注意を向けさせるのです。
エール:いや!わたしは話したいの!
エール:ちゃんと話してくれるまで、出て行かないから!
といって無理矢理入ってきたくせに、エールはミデンとロクに話をしていないのです。
ミデンとエールは似たものどうしだったが、エールはたまたまいじめから脱出することができ、ミデンはできなかったのです。それは自分の力ではどうすることのできないことなのです。他人の記憶を奪うことをエールが「偉いね」と言うのは、たしかに無理筋ではあるが、本当に偉いと思った実感があるのです。なぜならエールは変えようとしたのではなく逃げてきたのです。エールには逃げる先も、まわりのサポートもあったのです。
エール:うちに帰れば、パパもママも、ことりもいる
エール:学校行けば、友だちもたくさん
エールはこのことに気がつき、ミデンのサポートをしようとしたのです。
エール:だから、あのとき…
ミデンは思い出が自分のものにならないならいっそとはなのデジカメを壊したとエールは誤解したのです。エールはミデンと話をすれば彼自身の思い出ができると信じ、強引にミデンの心の中に入ってきたのです。しかしミデンはずっとひとりで雨に打たれるだけ(+はなの家をのぞくだけ)の人生だったのです。
ミデン:ずっとこうなんだ…
エール:ずっと…?
ミデン:ぼくは、これしか知らない…
エール:…そっか…
エール:ミデンは偉いね
エール:ずっとこんなじゃ、冷たくて、凍えて動けなくなってもしかたないのに
ミデンの心に侵入する前にエールが信じていたことは
- ミデンは孤独に苦しんでいる
- ミデンと話をするとそれを救える
でしたが、いざミデンを目の前にして
- ミデンと話せることはなにもない
と気づきました。「外に出たらいいことがあるよ」というのはウソなのです。なぜならおばけがいるとみんな怖がるからなのです。ミデンと自分が根本的に違うことを理解したのです。エールはミデンに「ミデンは偉いね」と無理矢理声をかけ、視線も上の空だったのです。相手を見て話せないのです。
自分たちと一緒に思い出を作ろうと言ったところで、おばけは成仏させれば消えてしまうことはエールも知っているのです。おばけの未来は変えられないし、なんにもできない、なんにもなれないのです。プリキュアの記憶をすべて手に入れてテンションの高かったミデンだが、なんでもできる!なんでもなれる!しあわせ満開!はぶっちゃけありえなーーーい!のです。だからこれはエールのウソ、空手形でしかないのです。ことばで慰めることができないのだから、エールは体でミデンを温めることしかできなかったのです。顔を近づけて、抱きしめるしかないのです。当然エールはめちゃくちゃ傷ついているから、だれかが守らねばならず、それがカメラの働き、だれかがエールを見ているということなのです。観客が見てエールの思いがわかり応援すれば、それでいいのです。
エール:もっともっとたくさんの思い出を
エール:一緒に作ろうね!
「もっともっとたくさんの思い出を、一緒に作ろうね!」と前向きなことを言っているのにつらそうな顔をするのは、それがウソだからなのです。消滅したおばけのミデンがしあわせになる方法があるとしたら、それは自分がカメラのミデンでたくさん写真を撮ること以外にはなく、それはウソだったとしても信じるほかはないのです。それはエールだけができることで、さすがのプリキュアでも他の子にはできないのです。対象を広げて、どこのだれだかわからない人のために傷つくことができる、それを母性と呼ぶのだというのが東映アニメーションの主張なのです。母性の本質をいじめられっ子、子供、ひいてはだれをも無条件にかばうことに見いだしたのです。
この映画の本質は暴力であり、ことばも説教、つまり暴力として描かれているから、ミデンとオールスターズの対決は、オールスターズがなんと言おうが暴力対暴力でしかないのです。とはいえミデンのようにこじれてしまった場合には暴力が必要なのは事実で、エールのように振るった暴力が自分にはね返ってくる人だけが振るうべきなのです。
暴力やことばと反対側にあるのが思い出だが
(エール:もともともってない思い出なんて)
(エール:ぜったいあなたのものにはならないんだから!)
ミデンはなにも思い出を持っていないし、おばけだからことばで慰めることもできないのです。エールにはミデンを救うすべが最初からなかったのです。この映画のテーマはまんが「この世界の片隅に」などの多くの文学作品と共通するが、死者にまつわるものなのです。ちっちゃいプリキュアや、隣の部屋にいるちっちゃい観客が名前を呼び思い出して応援することで、エールや他のプリキュアを守るのです。ちっちゃい子たちはミデンが作り出したものだから、生きているとも死んでいるとも言いがたいが、その間をつなぐことができるのです。生きている人が死んだ人のことを忘れるとおばけになるのです。鎮魂とは生きている人が傷ついたおばけをかばうことであり、かばうことは身体の接触で、相手が生きていても死んでいても、かわりに自分が傷つくことなのです。かばう人も自分が傷つくことには耐えられないから、生きている人や死んだ人が守るのです。「HUGっと!プリキュア」という題名はそういう意味なのです。
ミデンが消滅するときに悲しんだのはエールだけなのです。プリキュアはあんなにいたのに、ミデンの人格を認めたのはエールだけだったのです。
エトワール:でも、いい感じに話せたんでしょ?
こんなことを言っていても、ミデンの心が本当はどうなのか、だれも興味を持たなかったのです。かわいいエトワールが槍玉になりましたが、ほかのみんなも変わらないのです。むしろエトワールは
エトワール:ってかミデンのやつ、いったいなに考えてるんだろう
エトワール:わたしてっきり、プリキュアの力を奪って強くなって、なにか悪いことしようとしてるのかなって
エトワール:でも、いきなりこんなお城に引きこもっちゃうし
と言っており、わりとできる子なのですが
エトワール:返すつもりはなさそうだね!
この場面のエトワールは体術もあってかっこいいんだけど脳筋なのです。
ミデン:そんな孤独がお前たちにわかるか!
アンジュ:なにもない…
エトワール:つまり、ミデンは使われなかったカメラのおばけ…
アンジュ:だからわたしたちの記憶を奪っていたのね
アンジュ:本来このレンズに写すはずだった、楽しい思い出を
ミデン:空っぽのまま一生を終えたボクの絶望
ミデン:お前たちにわかるまい!
「お前たちにわかるか!」で挟んでいるのに、あっさりわかった(つもり)のアンジュなのです。
エール:もともともってない思い出なんて
エール:ぜったいあなたのものにはならないんだから!
思い出キュレーターのエールがこう言っているのをガン無視なのです。
〇ビっち、考えを改めたのです。HUGキュア、スタプリ、ヒープリは三部作になっているのは間違いないのですが、それぞれ「ことばのはたらき」が割り当てられているのです。HUGキュアは「(相手の気持ちに気づけていないとしても)とにかく呼びかける」なのです。スタプリは「大事なものに名前をつける」、ヒープリは「自分の気持ちを考える」なのです。
『オズの魔法使い』パクリのスタプリの本来の最終回では、ひかる、ララ、ユニが、それぞれ最初から持っていたのに気づかなかった愛、勇気、希望が、「愛」「勇気」「希望」という名前だと教ええられるのです。ひかるは祖父に、ララはクラスメイトに、ユニはアンに教えられるのです。これは家族、友だち、他人という、人間関係の三つのスコープに対応しているのです。これで自分の気づかなかったものに気づくことができるのです。ことばの分節作用なのです。
ヒープリののどかっちは病気が再発したのをひた隠しにするのですが、最後に両親に伝えるのです。その気持ちを組み立てるためのことばのはたらき、統語作用なのです。ヒープリは『ロミオとジュリエット』のパクリで、のどかっちとダルイゼンは惹かれ合うのですが、気持ちは口には出さないのです。「なにも言わないことが最大に気持ちを伝えることがある」なのです。のどかっちはわからないがダルイゼンは死ぬので、「伝える相手のいないことばのはたらき=祈り」なのです。
映画「HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ」は娯楽作品ですが、技巧を駆使した非常に高度な文芸作品でもあるのです。いじめや無視が根っこにあり、エールがまだ友だちをことばでは信じることができないことは、こうやって見ていかないとわからないことなのです。こればっかりはことばの力に頼るしかないのです。めちゃくちゃ大変なのです。ぶっちゃけありえないのです。
おまけ
〇ビの大好きなキュアエトワール輝木ほまれちゃんの名前の由来は、航空機用星形エンジン・誉なのです。 中島飛行機と海軍航空技術廠が開発した強力な2000馬力のエンジンで、戦闘機や爆撃機に使われたのです。エトワールはフランス語で「星」という意味なのです。くるくる回るところからフィギュアスケートなのです。「輝木」の由来は長いことわからなかったが、たぶん軍艦マーチの2番の最後の部分
萬里(ばんり)の波濤(はたう)を乘り越えて
皇國(みくに)の光(ひかり)輝かせ
なのです。軍艦マーチはアニメ「この世界の片隅に」で、防空壕でアンジュみたいに2000馬力エンジンの解説をしてくれた海軍技術者の北條円太郎が歌っていたのです。
おまけ2
ミデンの名前の由来はカメラメーカーのミノルタなのです。「稔る田(みのるた)」の田をデンと読んだのです。コニカと合併したけど倒産してないのです。失礼なのです。カメラ事業はソニーに譲渡したのです。ミデルタD9の由来はソニーα9なのです。ミデンFマーク2の由来はニコンF2なのです。ニコンF2を死蔵していたら祟られるのも当然なのです。