プリキュア・イターナルサンライズ!

プリキュアは2023年に車椅子の巨乳科学者・虹ヶ丘ひろみ/キュアヘリオと三体合体巨大ロボ「イターナルV」が登場し、2024年は火星が舞台のロボット刑事ものになるのです。

テッド・チャン WHAT'S EXPECTED OF US「われわれに期待したもの」 全訳

原文 解説

われわれに期待したもの 

これは警告である。注意深く読んでほしい。

 そろそろ予言機を見たことがあるころだろう。きみたちがこのメッセージを読んでいるいま、数百万個が出回っている。知らない人のためにいっておくと、それは小さな機械だ。車の扉を開けるリモコンに似ている。ついているのはボタンがひとつと、大きな緑のLEDがひとつだけ。ボタンを押せばライトが光る。厳密にいえば、ボタンを押す一秒前にライトが光る。

 ほとんどの人は、予言機で最初に遊んだとき、奇妙なゲームをしているような気分になると言う。ライトが光るのを見てからボタンを押せばよく、遊ぶのは簡単だ。しかしゲームのルールを出し抜こうとすると、それが不可能だとわかる。ライトが光るのを見ずにボタンを押そうとすると、ライトはすぐに光り、どんなに速く手を動かしても、一秒たつまでは決してボタンを押すことができない。ライトが光るのを待ち、そのあともボタンは押さずにいようとすると、ライトは決して光らない。いずれにしろ、光るのはつねにボタンを押す前だ。予言機をあざむく方法はない。予言機の中心部は、負の時間遅延回路だ。これは時をさかのぼって信号を送る。この技術の意味合いの全容はのちほど、負の遅延が一秒以上のものになったときに明らかになるが、それはこの警告が伝えるものではない。差し迫った問題は、予言機が、自由意志なるものは存在しないと証明していることだ。

 これまでつねに、自由意志は幻想にすぎないという議論があった。いくつかは実体的な物理学に基づき、別のものは純粋に論理学に基づいていた。ほとんどの人はこれらの議論には反駁できないことには同意しているが、その結論を本当に受け入れた人などいない。自由意志を持つという体験は、議論を無効にするほど強力なのだ。必要なものは証明であり、それこそが予言機のもたらすものだ。

典型的には、人は予言機を友だちに見せたり、機械を出し抜こうといろいろ試したりして、数日のあいだは取りつかれたように遊ぶ。その人は興味を失うように見えるかもしれないが、その意味するところを忘れられる人はいない。数週間のうちに、変えられない未来がもたらす結果が、はっきりあらわれてくる。一部の人は、自分の選択になんの意味もないことを実感し、いかなる選択もすることを拒否する。代書人バートルビーの軍団のように、自発的な行動には一切関わらない。予言機で遊んだ人の三分の一は、とうとうなにも食べなくなるので入院させる必要がある。最終的には無動無言症になる。覚醒している昏睡状態の一種だ。彼らは目で動きを追い、ときどき体勢を変えはするだろうが、それ以外はなにもしないだろう。動く能力は残るが、その意欲が消える。

 人々が予言機で遊ぶようになるまでは、無動無言症はきわめてまれで、脳の前帯状皮質の損傷によるものだった。いまでは認知的な伝染病のように広まっている。人々は、持ち主を破壊する思考の可能性をいろいろ考えた。語りえないラブクラフト的恐怖や、人間の論理系を破壊するゲーデル文など。このような、人を無能力化する思考は、われわれがすでに遭遇したことのあるもの、自由意志は存在しないという考えだということが判明する。それはきみたちが信じたときまでは、まったく無害なものだった。

 医者たちは、患者が会話に応じるあいだは彼らを説得しようとする。われわれはいままでしあわせで意欲的な人生を送ってきたではないか。そのときだって、どちらにしろ自由意志などなかったではないか。いまさらなぜかわるというのだ?「きみが先月とったどんな行動も、いまのきみがとっていることより自由に選択したとはいえない」と医者は言うかもしれない「きみはいまもまだおなじように動ける」 患者はいつも答える「でももう知ってしまった」 そしてそのうちのいくらかは、二度と話さない。

 一部の人は、予言機がこの行動の変化を引きおこしたという事実こそが、われわれが自由意志を持っていることの証だと主張するだろう。自動機械は落胆などしようもない、自由に考える存在だけがそれをできる。一部の人たちは無動無言症になり、他の人たちはそうではないという事実が、選択をすることの重要性を強調するのだ。

 残念ながら、このような推論は間違っている。あらゆる行動の形態は決定論と両立する。ある力学系は引きこみのくぼみにはまって不動点に巻き上げられ、別のものは永久にカオス的にふるまうが、どちらも完全に決定的だ。

 わたしはこの警告を、きみたちのちょうど一年先の未来から送っている。これは、百万秒単位の負の遅延回路が通信機器を構成するのに使われるときに受信された、最初の長いメッセージだ。他のメッセージが続き、他の問題を解決するだろう。わたしのメッセージはこうだ。自由意志を持っているふりをしろ。きみたちの決定に意味があるかのようにふるまうことは本質的だ。たとえそうでないと知っていても。事実は重要ではない。重要なのはきみたちが信じることだ。そして、覚醒している昏睡状態を避ける唯一の道は、そのウソであることの信念だ。文明はいまや自己欺瞞の上に成り立つ。たぶんずっとそうだったのだが。

 とはいうものの、自由意志は幻想ゆえに、だれが無動無言症になり、だれがそうならないのかは、すべてあらかじめ決まっていることをわたしは知っている。それについてはだれにもどうにもならない。予言機の効果をきみたちは選ぶことができない。きみたちのだれかは屈服するだろうし、だれかはしないだろう。そしてわたしがこの警告を送ったところで、その比率を変えることはできないだろう。ならわたしはなぜそんなことをしたのか?

わたしには選択の余地などなかったからだ。