プリキュア・イターナルサンライズ!

プリキュアは2023年に車椅子の巨乳科学者・虹ヶ丘ひろみ/キュアヘリオと三体合体巨大ロボ「イターナルV」が登場し、2024年は火星が舞台のロボット刑事ものになるのです。

プルンスが柳瀬尚紀先生から一本取ったでプルンス!

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柳瀬尚紀氏が「翻訳はいかにすべきか」で、アップダイク「キリスト教徒のルームメイトたち」(新潮文庫「アップダイク自選短編集」収録)の訳を叩いています。冒頭の原文と柳瀬訳はこんなです。新潮文庫訳は叩かれているとおりです。

Orson Ziegler came straight to Harvard from the small South Dakota town where his father was the doctor. Orson, at eighteen, was half an inch under six feet tall, with a weight of 164 and an IQ of 155. His eczematous cheeks and vaguely irritated squint—as if his face had been for too long transected by the sight of a level horizon—masked a definite self-confidence. As the doctor’s son, he had always mattered in the town. In his high school he had been class president, valedictorian, and captain of the football and baseball teams. (The captain of the basketball team had been Lester Spotted Elk, a full-blooded Chippewa with dirty fingernails and brilliant teeth, a smoker, a drinker, a discipline problem, and the only boy Orson ever had met who was better than he at anything that mattered.)

オーソン・ジーグラーは、サウスダコタ州の小さな町からストレートでハーヴァード大へ入った。父親は町で一人の医者だ。オーソンは18歳、あと半インチで6フィートに届く上背、体重164ポンド、IQ155だった。にきび顔となにか落ち着かない横目遣い--生れて以来、真っ平な地平線ばかり見てきたから顔に横線が引かれたらしい--その下には確乎たる自信が隠されていた。医者の息子として、町ではいつも一目置かれていた。高校では級長、卒業生総代、アメフトと野球の主将だった。(バスケットの主将は「あばた大鹿(エルク)」のレスターという純血のチパワ族インディアン、爪はどす黒いのに眩しい白い歯、煙草は吸うし、酒は飲むし、素行も問題ありだったが、何かこれぞということで一目置く相手を、オーソンは他には知らなかった)。

柳瀬氏は

Orson Ziegler came straight to Harvard from the small South Dakota town where his father was the doctor.

この英文をwhere以下から先に訳す必然性もしくは必要性はない。原文のthe doctorからは父親がその町でたった一人の医者であることが読取れるので、それを明確にするために、あとから訳すほうが理に適う。

と書いています。しかし、映画や小説で見るように、田舎町に一人しかいない医者は絶対的な権力者です。サウスダコタの小さな町は彼の王国であり、オーソンは若くたくましい王子なのです。「父親がたった一人で医者をしている」ことはこの小説の重要事であり、柳瀬氏のようにあとに持ってくるとつけたしのようになってしまうから、先に訳すべきです。実際、この小説は

After graduation, he married Emily, attended the Yale School of Medicine, and interned in St. Louis. He is now the father of four children and, since the death of his own father, the only doctor in the town. His life has gone much the way he planned it, and he is much the kind of man he intended to be when he was eighteen. He delivers babies, assists the dying, attends the necessary meetings, plays golf, and does good. He is honorable and irritable. If not as much loved as his father, he is perhaps even more respected. In one particular only—a kind of scar he carries without pain and without any clear memory of the amputation—does the man he is differ from the man he assumed he would become. He never prays.

と終わり、父親の話がでてきます。
柳瀬訳には他にもまずいところがあります。

His eczematous cheeks and vaguely irritated squint—as if his face had been for too long transected by the sight of a level horizon—masked a definite self-confidence.

 にきび顔となにか落ち着かない横目遣い--生れて以来、真っ平な地平線ばかり見てきたから顔に横線が引かれたらしい--その下には確乎たる自信が隠されていた。

the sight of a level horizonは「真っ平な地平線ばかり見てきた」ではなく、「落ち着いたものの見方」です。意訳ではなく、levelもhorizonも辞書にそういう意味があります。これは間違いではないのかもしれませんが、地平線のhorizonにはaではなくtheがつくのが普通なので、違和感があります。それがtransectするというのは、もの考えるときに目をあさってのほうに向けるやつです。squintは斜視だから、オーソンは外斜視で目が横を向いていることがわかります。サウスダコタの田舎はなにもないところで、見渡す限りの地平線だから、これはひっかけです。地平線なんて小説にはどうでもいいことです。vaguely irritatedは小説の最後に

He is honorable and irritable.

とあるので、全部読むまではうかつに訳せませんが、オーソンはイラつきやすいがそのたび目を横にやって冷静になったのでしょう。
こうしてみると、オーソンがブサイクだということがわかります。だから「覆い隠した」のほうがいいでしょう。
柳瀬氏は

わずかこれだけの文章にmatteredが故意に繰返されている。
he had always mattered
anything that mattered
この二つのmatteredにこの青年の自意識が覗く。
両方をなんとか掬いたいところところだ。片方のみを「重要な意味を持つ事柄で」などと訳すのでは、受験用英文解釈参考書のレベルにすぎない。

と指摘し、二か所とも「一目置く」と訳しましたが、オーソン自身もジョナサン・ジョースターみたいにできるやつなのに、町の人たちに「先生の息子さん」だから一目置かれるのは自意識とはちょっと違うと思うのです。

As the doctor’s son, he had always mattered in the town.

町ではいつも、ただ一人の医者の息子という地位にいた

という意味でしょう。なぜなら高校での地位の話がつづくからです。

In his high school he had been class president, valedictorian, and captain of the football and baseball teams.

医者が一人だけの田舎町の人口は500~1000人くらい、高校生も全部で数十人、男子はその半分だろうから、しょぼいアメフト兼野球部で、そのcaptainをしたことがある。

The captain of the basketball team had been Lester Spotted Elk

レスターはthe captainと定冠詞がついているので、不動の主将。

and the only boy Orson ever had met who was better than he at anything that mattered.

レスターは純血のチパワ族インディアンだから、boyは「相手」ではなく「男子」です。またhe at anything that matteredが一つの句です。あらゆる重要な地位についていた彼という意味です。そんな彼は不良のレスターにはかなわないと冷静に思っていました。たぶんオーソンにとっては純血のインディアン>医者の息子でもあります。レスターが白い歯も眩しいイケメンだからかどうかはわからない。
あとは柳瀬先生のをパクって

オーソン・ジーグラーは、父親がただ一人で医者をしているサウスダコタの小さな町から現役でハーバードへ行った。オーソンは18歳、あと半インチで6フィートに届く上背、体重164ポンド、IQ155だった。にきび面にすこしイラついた外斜視--落ち着いて考えるため目を横にやりすぎてきたらしい--が、確乎たる自信を覆い隠していた町ではいつも、ただ一人の医者の息子という地位にいた。高校では級長、卒業生総代、アメフト兼野球部の主将をしたことがある。(バスケ部の不動の主将は「あばた大鹿(エルク)」のレスターという純血のチパワ族インディアン、爪には垢がたまっているのに歯は白く眩しく、煙草は吸うわ酒は飲むわの問題児だったが、あらゆる地位を手に入れた自分より優れた男子を、オーソンは他には知らなかった)。

意味不明な「地平線」を追放し、オーソンの怒りやすいが冷静になるすべを心得ている性格と、ブサイクな外見を導入し、地位の話でまとめ、レスターにはかなわないと冷静に思っていることを明らかにしました。きれいなスジが通っているのでこちらが正しいと思います。パーペキ!もちろんひっかけを維持できていないという点では真の翻訳とはいえないでであります。

ひっかけ

アップダイクのひっかけ恐るべしです。

vaguely irritated squint—as if his face had been for too long transected by the sight of a level horizon

すこしイラついた外斜視--落ち着いて考えるため目を横にやりすぎてきたらしい

が正しい訳ですが、サウスダコタ→田舎→地平線という誘導に乗ると

なにか落ち着かない横目遣い--生れて以来、真っ平な地平線ばかり見てきたから顔に横線が引かれたらしい

と一貫の終わりです。

and the only boy Orson ever had met who was better than he at anything that mattered.

これの正しい訳は

あらゆる地位を手に入れた自分より優れた男子を、オーソンは他には知らなかった

二カ所のmatteredにはいかにも意味がありそうですが、in the townとIn his highschoolのつながりを見落とすと柳瀬氏のように

何かこれぞということで一目置く相手を、オーソンは他には知らなかった

としてしまいます。

この水準の英文小説を、ひっかけを保ったまま翻訳できるプロはいません。よいとこ、「本当の意味」で訳するでしょう。能力はともかくプロには時間がないので。平均的な翻訳家は大半のだましに気づかずに訳すでしょう。柳瀬氏は頭だけを見て、小説の終わりの

He is honorable and irritable.

を目にしなかったのだと思います。