プリキュア・イターナルサンライズ!

プリキュアは2023年に車椅子の巨乳科学者・虹ヶ丘ひろみ/キュアヘリオと三体合体巨大ロボ「イターナルV」が登場し、2024年は火星が舞台のロボット刑事ものになるのです。

廣瀬周「幻影戦獄伝デモニオ」は少年まんがの最高傑作です!

廣瀬周のまんが「幻影戦獄伝デモニオ」は本格的なトリック作品の傑作です。巧妙な仕掛けがしてあり、知らずに読んだときと、気づいて読みなおしたときの印象が全く異なります。

 

このまんがの世界の日本列島は、ある日、突如として地形も歴史も逆転してしまい、今川義元桶狭間の戦い織田信長に勝利し、彼を殺したことが史実になります。その逆転した日本の現代に、今川たち戦国武将が異形となって復活し、人々を支配し殺戮し、地獄のような世界に変えてしまいます。また、別の戦国武将は、人間の体を借りて蘇り、異形と戦い、歪みを戻そうとしています。

主人公の飛田(とだ)君は義元に殺された織田信長の生まれ変わりとなり、今川と戦い、逆転した世界をもとに戻す旅に出るまでが物語となります。主な敵は彼の同級生で親友だった麻琴君で、彼は敵の総大将の今川義元の子、今川氏真の生まれ変わりです(異形ではありません)。史実では桶狭間の戦いで義元が信長に討たれ、彼が今川家を継ぎます。

 

f:id:ChaldeaGecko:20190827021241p:plain

単なるサービスカットではない

これはこの作品の最後のコマです。主人公の飛田君の名前を呼んでいる彼女は一井さんです。彼女は飛田君が去ってから(再)登場するので、彼とからむことはありません。サービスカットに見えますが、作品の解釈をひっくり返す重要なコマです。

腰にある紋様は「過紋」といい、復活した武将の証のようなものです。ここを刀で突くとジョジョのスタンドのような命霊(ミコト)が出てくるので、それで敵と戦います。今川氏真の麻琴君にもあります。異形にもあるようです。

f:id:ChaldeaGecko:20191006210259p:plain

異形にも過紋はあるようです

彼女は「お市の方」と呼ばれており。過紋は織田家の家紋と同じ形をしています。彼女は信長の妹のお市の方の生まれ変わりでしょう。

一井さんは飛田君や麻琴君と同級生の、普通の高校生でしたが、序盤で今川軍に殺されてから、最後まで出てきません。

f:id:ChaldeaGecko:20190827021612p:plain

単なるマニア向けサービスカットではない

一井さんはどう見ても死んでいますので、お市の方の一井さんは、死んだ一井さんが復活したものだと考えられます。彼女は殺されてからはストーリーにからまず、最後まで出てこないため、どうやって復活したのかは伏せられています。

 

飛田君は、一井さんが殺される少しまえ、いきなり現れた狐耳の女に腹を刺されます。

f:id:ChaldeaGecko:20190827022355p:plain

狐耳は刺した飛田君のことを「大丈夫!もう少ししたら立ち上がってくるから」と言いますが

f:id:ChaldeaGecko:20190827030122p:plain

においで見当をつけてから刺していますが、「今度こそ間違いないと思ったんだけど……」と非常にアテになりません。

f:id:ChaldeaGecko:20190921144352p:plain

大量に出血しています

狐耳は「人違いだったみたい…」と言って一度去りましたが、それでも飛田君は無事に起き上がってきました。お腹を刺されて大怪我をして、大量出血したように見えますが、あまりダメージを受けているようではありません。

f:id:ChaldeaGecko:20190827230903p:plain

実は狐耳の女は帰蝶(織田信長の妻の濃姫のこと)といい、夫の信長を探し出し、今川軍と戦おうとしていたのです。彼女が刺した相手に織田家の過紋が現れれば、彼は織田信長の生き返りとなるのです。目をつけた飛田君は無事に復活した信長となり、帰蝶や仲間とともに今川と戦うことになります。敵役の麻琴君にも、今川家の家紋の形の過紋があります。

飛田君はすぐ左手に過紋があらわれ復活したので、たんに怪我をしただけのようにしか見えず、帰蝶に腹を刺されたことが過紋が現れる引き金のように見えます。しかし、一井さんのことを考えれば、やはり彼もここで一度死んだと考えるべきです。一度本当に死んだ人間が、過紋を持って復活する。戦国武将は、本人が死んでようやく死体を借りて復活できる。織田信長の彼や今川氏真の麻琴君は、いってみればゾンビです。「…さすがに死ぬ程の事じゃなかったって事なのかな」というセリフはミスリードであり、逆にいえば、本当は飛田君はここで死んでいるといっているようなものです。

f:id:ChaldeaGecko:20190921145839p:plain

これもミスリード

死んだ人間が生き返る話だとは誰も思わないので、一井さんもだまされ、読者もだまされます。

 

その飛田君は「良い事」が起きると必ず「悪い事」が起きると信じていました。

f:id:ChaldeaGecko:20190828011001p:plain

彼の「良い事」とは、女の子とのハプニングのことでした。起きた順番に、パンチラ、一井さんとあいさつ、一井さん押し倒し、帰蝶のおっぱいにはさまれる、一井さんに抱きつかれる、です。彼の「悪い事」は、元々は一般的な好ましからざる出来事のことだったようですが、作中では今川軍に襲撃されたり、誰かが殺されたりすることでした。

f:id:ChaldeaGecko:20190828141810p:plain

帰蝶は夫の織田信長、この世界の飛田君を愛していますが、彼女の目的は今川を倒し日本を元に戻すことです。帰蝶は辛い戦いにおもむく飛田君をはげまします。彼女も「信じてた人に裏切られたり 裏切ったり」「大切な人が殺されたり 殺したり」を「悪い事」と呼んでいます。帰蝶は飛田君を「その時は 私がもっと『良い事』をたくさんしてあげるから」と言ってなぐさめます。彼女の言う「良い事」もセックスのことにほかなりません。殺し殺され、裏切り裏切られの戦いの代償に、帰蝶が飛田君を体で慰めるということです。

f:id:ChaldeaGecko:20190921151839p:plain

名前は聞かない飛田君

飛田君は物語後半に入ったこの場面で、やっと帰蝶のことを聞きます。しかし「名前はなにか」という聞きかたはしません。帰蝶は自分の名前を教えたのに、飛田君も仲間も、けっきょく一度も彼女を名前で呼びませんでした。帰蝶を名前で呼んだのは、敵の今川方だけです。(史実の彼女の名前に触れている史料はわずかだそうです)

f:id:ChaldeaGecko:20190827030804p:plain

Hな妄想をする飛田君

むっつりスケベの飛田君は帰蝶が彼の妻だと知り、夫婦生活を妄想するくせに、ずっと彼女を「あなた」と呼びます。彼は彼女を信頼していませんでした。一度は殺そうともしました。

f:id:ChaldeaGecko:20190921152722p:plain

氏真の妻、早川殿も異形の美人

帰蝶は美人ですが狐耳を見れば人間ではなく今川と同じ異形であり、本来は飛田君とは対立する側にいます。飛田君は「でもだからと言ってイマガワの人とも違うし……」と言っていますが、ひっかけになっています。二枚目のスクショのブタの異形とおなじく、帰蝶にも過紋があると思われます。逆に、麻琴君は飛田君と同じ、人間の体を借りた武将であり、異形の今川とは対立する側が本来です。また、「悪い事」が起きたときに「良い事」でなぐさめるのは、「良い事」が起きると「悪い事」が起きる飛田君とは逆転しており、やはり帰蝶の力は異形のもので、飛田君とは相容れない存在だと思われます。帰蝶は愛する飛田君を体で戦いにけしかけ、今川を倒して日本を元に戻そうとしています。でもそうなれば異形の彼女は滅び、ゾンビの飛田君は死体に戻る。こんなに辛い話はありません。

 

帰蝶はヒロインのくせに内面を見せることが少なく、以下の二つとキスシーンくらいです。彼女は明るくて親しみやすいお姉さんですが、この、内面を見せないところと、狐耳の異形というためか、一人で浮いていて、明るさも空回りしているようにも思えます。しかし実際の内面がこれほどすさまじいものだとすると、帰蝶のほうから距離を置いているのかもしれません。

f:id:ChaldeaGecko:20190827234936p:plain

f:id:ChaldeaGecko:20190827234951p:plain

帰蝶は飛田君への愛が一方的なことも、日本が元に戻ればその愛も終わることを知っています。だから作中で彼女の感情がもっともあわられているのは「その時は 私がもっと『良い事』をたくさんしてあげるから」のコマでしょう。

f:id:ChaldeaGecko:20190921153534p:plain

顔を完全に隠している

 廣瀬先生は、苦労してたどりついたこのコマを、キスシーンと「だから絶対に死んだりしちゃダメ」という、帰蝶の愛を直接描いたコマではさみ、当のコマでは彼女の顔を隠しました。構図やコマ割りも、彼女の愛がどういった種類のものかをあらわしています。これはトリックではありませんが、トリックと組み合わさって非常に効果的になっています。

 

「幻影戦獄伝デモニオ」は、効果的なトリックに廣瀬先生のずば抜けた表現があいまって、きわめて優れた作品になっています。もし、自分でも読もうという気になったなら、時間は覚悟してください。