わたし達の中に 生命があふれてる

犬好きで重なる勇気は最強なんだから

アルジス・バドリス「無頼の月Rogue Moon」構造物も物質転送機も女の子だった!

物質転送機はオリジナルの人物を破壊し、月側にM)oon、実験室側にL)aboratoryを再構築する。また、Lは自分の感覚を遮断されMの感覚を受け取るようになっている。Mが死ぬか接触が切れるかするとLは自分の感覚に戻るが、その瞬間までの記憶は持っている。殊能将之氏の日記の記述はかなり間違っている。

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結論から書きます。物質転送機も構造体も、著者がつけた題名"The Death Machine"もぜんぶ女の子のことです。この作品の主張は

  • 女の子は男をホレさせる
  • 女の子の愛はときどき、たまたまに与えられる
  • 女の子は理不尽に男をフる

です。構造物を女の子として見てみると

登場人物 作中の描写 女の子でいうと
  月に転送される 女の子にホレる
海軍技術者 基地でゾンビ化している 女の子とつきあえない
  自殺する 女の子をあきらめる
志願者、バーカー 構造物で殺される 女の子にフラれる
バーカー 構造物ではじめて殺されたとき、ひどくおびえた 最初の失恋
バーカー 構造物を出るとき、何か大切なものを失いそうな気分になった 結婚
バーカー 構造物を突破したがゾンビ化した。技術者ではないため基地ではすることがない 結婚生活
ホークス 出口だけ突破したが、基地に戻らず半ば自殺的に死ぬ 童貞だからいきなりエリザベスにプロポーズして玉砕する(はず)

 ホークス博士は42歳のナードで、頭がいいのが自慢だが、女が怖く、おそらく童貞だ。バーカーはジョックで女にモテるために危険なスポーツをしているが、本当はフラれるのが怖い。クレアはビッチで見境なく男に迫る。エリザベスは清楚可憐な25歳でエロゲーのヒロインみたいだから、ホークスは首ったけだ。

 

Kindle版にはないが、書籍には以下のようなエピグラフがある。 

Halt, Passenger!
As you are now, so once was I.
As I am now, so shall you be.
Prepare for Death, and follow me.
--New England gravestone motto

四行目は普通に解釈すれば「死に備え、我に続け」といった意味だが、この小説では「死を図り、我に続け」だ。 

 

 1章Iに、構造物で死に正気を失った隊員のことを

'Well, now,' Weston said quickly, 'he was a volunteer. He knew it was dangerous. He knew he could expect to die.'

 という場面があり、この"He knew he could expect to die"も普通に解釈すれば、「彼は死ぬ可能性を認識していた」だが、正しくは「彼は死を望めると知っていた」だ。

 

5章IIIでホークスは、初めて月面で死に混乱したバーカーに小学一年生の時の教科書の表紙を思い出させ、

'Well, now, you see, Barker,' Hawks said softly. 'You have been alive for as long as you can remember. You are something. You've seen, and remembered.'

と言った。金魚の表紙は構造物のトラップを連想させる。赤字はあとで使う。

 

7章でホークスはラトゥレットに向かってこんなことを言う。

Why should a man be at the mercy of things that pay him no attention?'

 

8章の終わり近くのホークスの長い自慢たらしいセリフの一部に

But the thing is, the universe didn't make it. I did I saw it, but I saw it because I made myself see it.

というのがある。その少し先に

Hawks looked at her. He reached out, and bending forward as tenderly as a child receiving a snowflake to hold, gently enclosed her in his arms. ‘Elizabeth, Elizabeth,’ he said. ‘I never realized what you were letting me do.’ ‘I love you.’

とある。ホークスは17も年下のエリザベスが怖く、手を回すだけで抱けなかった。あとになるが、ビッチのクレアに迫られたホークスは彼女に説教をし、彼女に

'You're scared, Hawks,' she said. 'You're scared of a woman, just like so many of them are.

と言われた。

 

9章Vで二人は構造物を通り抜ける。バーカーMは何度も月面で死んだが、死なずにLと接触が切れたのはがこれが最初だ。彼は構造物から出る直前に、そこから出るとなにか大切なものを失いそうに感じ、ホークスを道連れにトラップに突っ込みそうになった。「大切なもの」とはMとLの接触のことだった。この接触を失ったバーカーは急に元気になり

A man -- a man makes himself

 などと言い出す。バーカーは本当になにもないのにいきなり躁になっている。(少しあとだが)ホークスは彼のことを

They're the living dead, and they know it. And they were made, by me.

と言った。theyというのは月面の海軍技術者のことだ。彼らは全員が志願者だった。月にいる人間はrememberしているからaliveではあるが(5章III)、それはliving deadだった。バーカーはいかにも躁状態だが。月面の技術者に間で自殺がはやったとホークスは言っている。

節の終わり近く、ホークスはこんなことを言う。

I haven't played fair with any of you. I've never once shown any of you mercy, except now and then by coincidence.

節の最後

Hawks then clambered over the rocks until he began to pant. Then he stood, wedged in place. He turned his face up, and stars glinted on the glass. He took one shallow breath after another, more and more quickly. His eyes watered. Then he blinked sharply, viciously, repeatedly. ‘No,’ he said. ‘No, I’m not going to fall for that.’ He blinked again and again. ‘I’m not afraid of you,’ he said. ‘Someday I, or another man, will hold you in his hand.’

ホークスMは激しく泣いているのだが、宇宙服を着ているので涙を拭えず、何度もまばたいている。 せっかく構造物を通り抜けたのに何もなかった。fall forには「だまされる、引っかかる」と「恋に落ちる」という二つの意味があり、構造物とエリザベスが重なっている。 女が怖いホークスは「お前なんか怖くないからな」と言っている。"I, or another man"はどちらもホークスLのことを言っている。

 

9章VIで、ホークスLは自分はオリジナルとは別の人間だと言っている。

Barker laughed. ‘All right. But what’s the difference between being there and only remembering being there?’ Hawks mumbled, working at the note, ‘I don’t know. Perhaps the Navy will have a report for us on what Hawks M and Barker M did afterward. That might tell us something. I rather think it will.’

もしbeing thereとonly remembering being thereに違いがないのなら、Hawks being thereとonly remembering Hawks being thereにも違いはない。ホークスLがエリザベスを抱いたとしても、彼女が覚えているのがオリジナルのホークスなら、それはホークスが抱いたのと違いはない。

‘Remember me to her.’

 だから自分をrememberするようにエリザベスに伝えてくれ、とLに宛てた。

 

ジャズの名曲"Fly me to the moon"がアイデアの元になっているようだ。曲は

In other words, please be true
In other words, I love you

で終わるが、本文を"In other words"は少し離れて二か所ある。

In other words, what the matter transmitter will do is tear down and then send a message to receiver telling it how to put you together again.
'In other words,' Baker said, 'I'm dead.'

構造物は女の象徴だったが、物質転送機も女の象徴だった。本文にloveという単語は、ホークスとエリザベスの会話に集中して現れ、最後の出現は8章終わりの'I love you'だ。彼がtear downされ月に行ったのも必然だった。

 

ホークスによればmercyは

You're right. Mercy is only a recent human cultural invention.

である。転送機はまぎれもなくa recent human cultural inventionだからmercyなのだろう。

 

等号で結ぶとこうなる。女=物質転送機=構造物、愛=mercy=躁であり、愛も躁も殺す。なので、「女の愛はときどき、たまたまに与えられる」「女は理不尽に男をフる」というのが結論だ。

 月に送られた人間は全員がmanやmenと男だと明示されている。転送機は男をtear引き裂くが、恋に落ちた男が流すのもtear涙だった。